前頭側頭葉変性症

日本認知症学会教育セミナーがありました。認知症は、精神科や神経内科の先生が多い印象ですが、年々脳神経外科の先生方の参会が目立つようになっています。特にMRI完備の脳神経外科クリニックの先生方が増えています。脳神経外科医は、病院勤務時代は手術に専念します。しかし、開業すると多くの患者さんが「もの忘れ」の精査で脳神経外科クリニックを受診するため、認知症診療のファーストラインに立ちます。

さて、今回のセミナーでは、以前より楽しみにしていた、池田学先生の前頭側頭葉変性症の講演がありました。写真は、自身の経験した意味性認知症(前頭側頭葉変性症のひとつ)の患者さんです。海馬を含む側頭葉の萎縮があるため、VSRADという海馬の萎縮度を測るMRIで、異常値がでます。食行動や常同行動などの特徴的な所見に気付かないと、誤ってアリセプトなどの抗認知症薬を出し、かえって興奮・介護抵抗が増えます。有病率が少ないですが、もの忘れ外来には確実に含まれていますので、常に念頭におくことが大切です。

アルツハイマー病研究会2017(専門的な内容です)

第18回アルツハイマー病研究会がありました。幅広い最先端の内容でした。中でも、認知症の正確な診断に検査はどこまで必要か、というトピックスが興味深かったです。以下の内容が、現状における大方のコンセンサスだと思います。(以下、ADアルツハイマー型認知症、DLBレビー小体型認知症、CHEIアリセプトなどのお薬)

・物忘れ、幻視、迷子、失行、パーキンソニズム、うつなどいずれの初発症状であっても、MRIやCTといった形態画像診断は推奨

・TPD(PART, SNAP)の可能性が否定できない場合、SPECTや場合によっては髄液検査。11CPIB(アミロイドPET)はADの確定診断には有効であるが、保険適応外。

・ADに、DLBやPSPなどの複合病理の可能性がある場合、シンチグラフィー。特に、MIBG+DATは感度・特異度ともに90%以上。

具合が悪くなってから一度も形態画像検査をされていない場合、絶対に落としてはいけない二次性認知症の鑑別のためにMRIはとても有効です。慢性硬膜下血腫や脳腫瘍、脳梗塞があるのに、CHEIが処方され、当院に精査にこられる患者さんもいらっしゃいます。問診や神経診察だけではいろいろな意見がでる場合でも、画像一発でだれもが納得する所見が得られます。両側の明らかな海馬萎縮があれば、積極的にADを支持する所見となります。ただ、MRIと一言で言っても、どのシーケンスをどこまで細かくとるかが重要になります。前頭葉や頭頂葉(特に内側面)などのdefault mode networkの器質性病変は、明らかな神経学的局所所見がとれないことも多く、漠然とした注意力の変動や、失読のみの場合もあります。しかし、患者さんをよく知るご家族は、何かいつもと違うということに気づき、受診につなげます。長く脳神経診療や研究をしていて思うのは、「脳は、脳以外の身体の異常感知には優れるが、脳自身の異常に対する警告は下手(特にnon eloquent)」です。くも膜下出血・髄膜炎・片頭痛などは、軟膜外の三叉神経領域ですので、これらも脳以外となります。たまに、「おい脳よ、なぜここまで我慢した」といいたくなるような症例もいます。

TPDに、CHEIが有効かどうかはよくわかりませんが、今までADと診断されていた中の20%程度は、TPDなどのnon ADというデータが増えてきています。MCIとの診断で生活指導中心とし、本人・家族の相談のうえ、追加検査の検討や、CHEI処方が実情ではないでしょうか。ただ、AD以外でもCHEIの有効性は示されつつあり、DLBへの処方も保険適応となりました。正確な診断には、やはり半年スパンの時間軸が必要となるのではないかと考えます。

複合病理とは、複数の認知症がかぶっている場合です。ADとして診療している方にパーキンソニズムや幻視が出現する場合、AD+DLBとなります。AD+VaDは多く、ほかにも+PSP, CBDなどいろいろ可能性があります。その鑑別に、MIBG/DATが有効です。70才未満の若めの場合は、髄液検査・遺伝子・PETなど含め、精査が必要かもしれません。

20年ぶりのDuo

横浜市大センター病院(市民総合医療センター)脳神経外科准教授 坂田勝巳先生と約20年ぶりにDuoしました。坂田先生は、頭蓋底腫瘍のエキスパートで、私を脳神経外科へ導いていただいた恩師です。Spain, Someday my prince will come, Candy, Blue in Greenなどのスタンダード中心に意気投合しました。

市大センター病院脳神経外科は、腫瘍や血管障害をはじめ、市大グループ施設の中でも、幅広いスペシャリティを維持強化しています。私が開業してからは、レビー小体病や神経難病に関して、神経内科との連携も増えています。特に、難治性パーキンソン病の脳深部刺激療法は、市大センター病院の脳神経外科・神経内科のコラボで、神奈川県における機能外科を牽引しています。

坂田先生とは診療のみならず、ジャズ研鑽もともに積んでいけたらと思っています。

治る認知症

もの忘れや認知症と思われている中に、治療で治るものもあります。写真にある慢性硬膜下血腫もそのうちの一つです。明らかな頭部打撲がなくても、いつのまにか脳の表面に血液が溜まり、脳を圧迫します。歩きずらい、ミスが増えた、声が小さいなどのちょっとした変化を見逃さないことが重要です。認知症のような症状や運動症状が出現している場合は、1cmほどの穴をあけて血液を除去すればほとんどの症例で改善します。

ご高齢の方や、よく転ぶ方、血液サラサラするお薬を内服している場合、発症リスクが高くなります。疑わしい場合は、ご相談ください。

 

経営者に大切なこと

京セラオプテック元社長、福永正三先生の経営塾と、神奈川県の企業経営者の異業種交流会がありました。福永先生は、京セラ稲盛哲学の継承者で、熱いと噂の経営塾を全国で展開しています。個人的にも以前よりご指導いただいています。今回、横浜で講演されると伺い拝聴してきました。

AI、ロボット、IoT、クラウド、GDP成長の限界、大量消費時代の終焉、超高齢社会、企業メンタルヘルス・・・などなど企業を取り巻く環境は大きく変わりつつあります。5年10年先を見据えて計画を立て、事業を成長させていくことは基本です。しかし、福永先生のお話やほかの社長・役員さんのご意見を伺うと、「感謝」「情熱」「精進」などの経営者心構えがとても重要であると感じました。逆に、その心根が正しければ、無駄なエネルギーを使わずとも、川の流れに身を任せていながらにして事業は成長すると感じました。

福永先生は80歳を超えたいまでも月の半分以上は各地で講演活動などされていると伺い、「根性」が最後を左右すると肝に銘じ、私のできる啓発活動は続けていきたいと思います。

認知症専門医教育施設に認定

当院が、認知症専門医教育施設として認定されました。脳神経関連学会や認知症に携わる学会専門医に対し、サブスペシャリティーとして認知症専門医資格を取得できるよう、指導できるようになりました。2025年問題を控えた超高齢社会であるにも拘わらず、全国でも502番目の認定とは、意外と指導施設が少ないものだと感じました。自身もまだまだ未熟ですが、自覚をもって診療にあたりたいと思います。

手のしびれ・痛み・麻痺

  横浜市立市民病院 整形外科部長 沼崎伸先生の頚椎・上肢症状の講演会がありました。沼崎先生とは、小田原市立病院時代に一緒に働いて以来、10年ぶりの再会でした。よくゴルフに行きました。

脳神経外科外来には、頚椎・末梢神経障害の患者さんも多く来院されます。頭痛やめまいが頚椎の異常に由来することもあります。手の脱力や感覚異常が、頚椎・末梢神経由来のこともあります。当院の脳MRI検査では、必ず頚椎矢状断を入れてますので、脳の異常だけでなく、頚椎にも落としていけない異常がないか、常に配慮しています。キアリ奇形・椎間板ヘルニア・脊柱管狭窄症・多発性硬化症・腫瘍・頚椎配列異常・脊髄空洞症など、頚椎MRI矢状断で発見できる頚椎病変は多くあります。

同区内に優しく優れた整形外科医がいてくれることはとても心強いです。密な連携をしていきたいと思います。ゴルフも(^^)/

レビー小体病とは

横浜市立大学神経内科医局長 上木英人先生のレビー小体病に関する講演がありました。上木先生は、市大同窓生で、20年以上の付き合いです。当院の診療においても、いろいろ相談に乗っていただいています。
レビー小体病は、αシヌクレインという蛋白質が神経細胞にたまっていく病気です。たまる神経によって、パーキンソン病やレビー小体型認知症や純粋自律神経不全(pure autonomic failure)を発症します。同じαシヌクレインがたまる病気で、多系統萎縮症もあります。ふるえや歩行障害などの運動障害だけでなく、幻視や自律神経失調症など多彩な症状の原因となります。上木先生はじめ市大神経内科の専門家と連携しながら、最新の治療を提供していきたいと思います。

介護者を守る(レスパイトケア)

三ツ境にある神奈川病院・あさひの丘病院を統括する、誠心会理事長 佐伯隆史先生と連携会をしました。佐伯先生とは、オーストラリア留学を共にした縁があります。その時お世話になった、メルボルンのGP(日本でのかかりつけ医)Collins Street Medical Center院長 Tiarni先生も来ていただきました。

認知症診療において、急に幻覚妄想状態となる「せん妄」は注意が必要です。認知症や脳卒中などで脳に傷がついていると、環境変化や脱水やかぜなどの身体変化により、「せん妄」は発生しやすくなります。興奮・介護抵抗などの陽性症状中心のものだけでなく、ぼーっとする陰性症状もあります。特に、陽性症状に傾く「せん妄」は、居宅で見ていくのには限界があり、しばしば精神科に緊急入院が必要となります。患者さん自らの安全のためもありますが、介護者が手に負えなくなり入院せざるをえなくなります。しかし、日中入院先を探すのはとても難しいのが現状です。佐伯先生には、私個人のヘルプ要請に応じて患者さんを引き受けていただき、とても助かっています。私だけでなく、介護者も安堵されます。「せん妄」は治療すればもとに戻るので、疑わしい場合はまずはご相談ください。

「せん妄」以外でも、介護者負担を軽減する手段は多くあります。レスパイトケアと呼ばれており、認知症家族の管理に行き詰っている介護者の方は、是非ご相談ください。

また、日豪関係はますます親密になっており、会社の出張や、オーストラリアから日本への赴任などの数も増加しています。Tiarni先生は、オーストラリアの主要都市の日本人GPとのつながりが強く、国境を越えての連携を構築中です。英語の診療や、オーストラリアへの赴任などでご心配がある場合は、是非ご相談ください。

常に一流を目指して

新都市脳神経外科病院院長、森本将史先生と連携会がありました。森本先生率いる新都市脳神経外科病院は、脳卒中治療件数神奈川県1位です(全国9位)。私が医局長のとき、森本先生が京都大学から新都市に赴任し、横浜市大の関連施設として学会に登録しました。手術とカテーテル、両刀を目指す脳卒中外科医の注目を集めています。

脳卒中急性期医療において、心房細動による脳塞栓や、脳動脈の急性閉塞は、大きな後遺症を残す点から、できるだけ被害を小さくしたいところです。tPAは「魔法の薬」として脳卒中救急で重要な位置を占めますが、再開通率は思いのほか低いのが現状です。またembolectomyという直接開頭して血栓を取りに行くのも、工程数が多く侵襲もあります。そういう観点から、カテーテルで直接血栓を回収に行くほうが、低侵襲でスピーディーといえます。当院から新都市は救急車では30分以内で行けます。また、血栓回収は発症から8時間くらいまでは効果が期待できますので、適応症例があれば、是非相談したいと思います。

ほかにも森本先生のお話で、感銘を受けたのは、常に一流を目指し続ける、世界を意識するという心構えです。横浜市大で指導いただいた故 川原信隆教授も同じ意識をもっていました。私のような愚輩には到底ない意識ですが、横浜の中心に近いところで開業している身として、目指していきたい姿勢です。森本先生は、京大時代、夏はラグビー冬はアルペンスキー部で奮闘していたと伺い、私とまったく一緒の選択だということも驚きました。密な連携をして、患者さん第一を胸に、質の高い医療を提供していきたいと思いました。