くも膜下出血

前項で脳動脈瘤のお話をしました。稀に、経過観察中にくも膜下出血になる方がいます。写真は、70代の女性で、偶然左の中大脳動脈に小さな瘤がみつかりました。2mm前後でしたので、ときどき大きさをチェックしていました。経過中0.5mmほど大きくなったけれども、まだ3mm弱なので様子を見ましょうと言った1週間後に、「先生、破裂したみたい」と歩いてきました。MRIでは、左のシルビウス裂にくも膜下出血を認めました。幸い、神経学的にはグレード1の軽症であり、病院からお迎えいただき無事治療できました。

極めて稀ですが、未破裂脳動脈瘤を抱えている方は注意が必要です。

脳動脈瘤

脳動脈瘤は、脳の動脈にできた瘤状のふくらみで、破裂するとくも膜下出血になります。くも膜下出血はどのくらいの脅威なのでしょうか?顕微鏡手術や血管内治療が発展している昨今でも、予後は20年前とあまり変わっていないようです。概ね、1/3が死亡 1/3が後遺障害 1/3がもとの生活に復帰となります。

では、脳動脈瘤が見つかったら治療をすぐに行う必要があるのでしょうか?

脳動脈瘤の破裂率は年間1%未満と見積もられております。私の経験でも、未破裂脳動脈瘤でフォロー中の方が、くも膜下出血で倒れることは稀ですが、ゼロではありません。ガイドラインでは、5mm以上の大きさで75歳未満の方は治療を受けたほうがよいとされています。

ほか、参考すべき点として、瘤の場所です。特に、前交通動脈は破裂しやすい場所です。ここにできた場合は、3mm程度でも手術を勧める術者は多いです。また、血のつながっている方にくも膜下出血がいる方、複数の瘤を有する場合、喫煙している方、血圧の高い方は、注意が必要です。

瘤をとりまく問題として、MRIで瘤が見つかると、いつ破裂するかもしれない爆弾を抱えたような気持ちになり、日常生活に支障がでる場合があります。また、手術をしたほうがよいか経過観察でよいかのグレーゾーンに該当した場合は、選択決断はかなり迷うことになります。

瘤でお悩みの場合は、画像を持参して相談いただけますと幸いです。一意見として、参考になればと思います。

開院3年を迎えて

開院3年を迎えました。1万人以上の方にご利用いただいており、質を下げないよう集中して診療してまいります。多くの関係者に支えられながら大事なく運営できており、感謝いたします。

ご利用いただいている方々の地域を分析しますと、保土ヶ谷区にお住まいの方が約6000人(57%)、保土ヶ谷区以外の横浜市の方が約4000人(36%)、横浜市外の方が約1000人(7%)でした。近隣の方は、認知症や脳卒中などで「脳のかかりつけ医」としてみる割合が多いのに対し、沿線の遠方からは、頭痛の相談に来られる方の割合が圧倒的に多いです。内容はさまざまですが、特に、可逆性脳血管攣縮症候群RCVSの方が、県外から数か所受診ののち来院されるケースが多い印象です。頭痛もちではなかったのに、突然ひどい雷鳴頭痛を繰り返すようになり、問題なしで痛み止め処方されても改善しないため、苦悩の末来院されます。脳神経関連科においてはRCVSの疾患概念は一般的に浸透しつつありますが、実際に患者さんを前にするとそれに気づかないこともあるのではないかと思います。患者さんの訴えに集中して向き合うことが質の向上への近道であると確信し、努力精進してまいります。

認知症と脳神経外科の連携会

日々お世話になっている先生方との連携会が2つありました。当院は、どの医療機関とも連携いたしますが、かかわりが深い先生方も多かったですので、ご紹介いたします。

(写真上)第45回神奈川PET/SPECT研究会。左より、、、塩崎一昌先生(横浜市総合保健医療センター 地域精神保健部部長 市内4つある認知症疾患医療センターの一つ)、、、私、、、張家正先生(いえまさ脳神経外科クリニック院長 今回の代表世話人で、正常圧水頭症LPシャントにおいて日本の第一人者)、、、數井裕光先生(高知大学医学部神経精神科学講座教授 SINPHONIなどの水頭症大規模研究でご高名な先生)、、、内門大丈先生(湘南いなほクリニック院長 湘南をベースに常に新しい認知症医療体制にチャレンジしている第一人者)。今回、數井裕光先生に、しばしばみられる「特発性正常圧水頭症とアルツハイマー病の併存」の診療につきご講義いただきました。

(写真下)Du Vin HACHISCH(石川町のフレンチ)秋のワイン会。左より、私、、、宮原宏輔先生(国立病院横浜医療センター脳神経外科部長 Post藤津を牽引するホープ)、、、池田嘉宏先生(うらふね脳外科クリニック院長 脳神経外科における浜のドン)、、、野地雅人先生(のじ脳神経外科・しびれクリニック院長 しびれ・スポーツ外傷のエキスパート)、、、権藤学司先生(湘南鎌倉総合病院副院長 脳神経外科部長 医局の大御所)。Du Vin HACHISCH西村シェフ。坂田勝巳先生ご夫妻(横浜市立大学市民総合医療センター准教授 脳外科業界では有名人かつ私のジャズ仲間)。大島聡人先生(NTT東日本関東病院から横市脳外に入局 将来期待の若手脳神経外科医)。小林弘典先生(済生会横浜市南部病院 循環器内科)。磯島大輔先生(横須賀市民病院精神科診療部長 ワインに精通した今回の主催者)。精神科の磯島先生主催ですが、ありがたいことにほぼほぼ横浜神奈川の脳神経外科情報交換会になっており、大変貴重な機会でした。

当院は、クリニック診療の質を向上させる一環として、幅広い人脈を生かした効率よいエキスパート紹介も意識しています(ハブ的役割)。お気軽にご相談ください。

当院の頭痛外来と代診

火曜日午後と水曜日の診療は、大学の先生方に代診をお願いしています。てんかんに詳しい先生や、脊椎病変に詳しい先生などが来てくれるので、当院でセカンドオピニオンを伺うことができます。慢性頭痛と認知症の相談は、そのほかの診療時間で、日暮雅一が担当しています。さて、当院の頭痛外来で多く経験される疾患に関して、いくつかご紹介します。

1、片頭痛 ない日とある日が明確な頭痛。発作中に活動すると、頭痛・吐き気・めまい・まぶしい・音過敏などが増悪して、寝込んでしまう。長く患っていればMRIなしでも診断を迷わないが、始まったばかりの場合はほかに原因がないか確認が必要。5歳くらいから起こりうる。頭以外にも首の後ろや鼻根部などに偏って発生することがある。10人に1-2人の有病率であり、薬や対処法は確立されている。頓服を頻用した場合、薬物乱用頭痛を併発しやすい。

2、群発頭痛と新規発症持続性連日性頭痛NDPH ある日突然連日の頭痛もちになったと訴える。前者は、片方の目の奥や側頭部に限局し、発作時間が1-3時間と限定されているので診断は容易。一般的に流涙・鼻閉などを伴うとされているが、自覚されていない場合もあるので、発作時に目を確認してもらうことが必要。稀に、発作性片側頭痛という似たようなモードもある。後者NDPHは、不明な点も依然おおいが、ある日突然連日の頭痛もちになり改善しなくなる。あらゆる予防薬や頓服が効かないことが多い。しかし、一定期間フォローしていると突然改善することがある。

3、ある行為により誘発される雷鳴頭痛 こちらもある日突然頭痛もちになったと来院される。シャワー、入浴、トイレ、運動時・・などの特定の行為により、拍動性の頭痛が引き起こされる。数時間で緩解するが、同じ行為で再発する。概ね1-3か月程度で自然に緩解する。緩和する薬もある。MRIで、移動する血管攣縮を認めるケースがある。初発時は、くも膜下出血の除外のためMRIをとったほうがよい。

4、椎骨動脈解離 こちらもある日突然頭痛もちになったと来院される。片側の首の後ろから後頭部の持続痛。当院では、週2件程度のペースで診断される比較的頻度が高い脳卒中。くも膜下出血や脳梗塞に至る可能性もあり、リスクが高いと判断した場合は、入院が必要。いわゆる「軽いけど重い頭痛」の一例。

5、蓄膿症による頭痛 こちらも急に頭痛もちになったと来院される。4つある副鼻腔すべてでおこりうる。貯留部に一致して痛みがあるので、おでこがいたい、ほっぺが痛い、押すと痛い、がある場合、鑑別に挙がる。MRIで診断は容易。耳鼻科の先生からも依頼されるが、蝶形骨洞周辺の局所的な液体貯留はレントゲンではとらえにくく、頭部全体や後頭部の痛みとして訴える場合があるので注意が必要。痛み止めだけ飲んでいても改善しない。蓄膿症が実はあって、片頭痛の頻度が増えている場合がある。

6、子供の頭痛 片頭痛・蓄膿症・脳腫瘍などによる頭痛の場合、治療方針がはっきりしており対応しやすい。治療難度が高いもので、起立性調節障害OD(起立性頻脈症候群POTSなど)や適応障害がある。起床時の頭痛とめまい、学校にいけない、寝つきが悪い、夜更かしがある、などの場合に鑑別にあがる。生活指導と投薬、小児科の先生や精神科の先生と連携してフォローする必要がある。

頭痛は国際分類では300種類と多く、当然ほかの頭痛もたくさんあります。不明点や心配なことがあれば、いつでもご相談ください。

江の島みんなフェス

9月21日は、世界アルツハイマーデイです。江の島で、「江の島みんなフェス」が開催されます。認知症の患者さんやそのご家族が住みやすい社会を目指す啓発イベントです。神奈川で認知症診療に携わる医療機関や、民間団体が協力して行います。当院も協賛させていただいております。認知症の患者さんも、サポートするご家族も、ケアや医療に携わるひとも、是非ご参加ください。

脳涼会2019

横浜ジャズクラブとしては老舗の、野毛のドルフィーの二号店(馬車道)で、近隣の脳・精神関連の先生方と脳涼会をしました。当院を支えてくださるスタッフや連携先の先生、業者さんなどと、いろいろ情報交換できました。ジャズあり、歌あり、DJありと楽しい時間をすごせました。当院は特に、脳外科・神経内科・精神科との連携が多いです。音楽を通じての交流もまた、日々の診療連携を円滑にするもので、引き続き集まりたいと思います。

繁田ハウス(認知症カフェ平塚)

平塚の栄樹庵で繁田ハウスプロジェクトの集まりがありました。繁田雅弘教授(東京慈恵医大精神科)と内門大丈先生(湘南いなほクリニック)の運営する繁田ハウスプロジェクトの初会合です。栄樹庵は、繁田教授のご実家を改造し、お母さまがお茶をふるまってくれる平塚の認知症カフェです。

左の写真は、教授のご先祖様の前での一枚。繁田教授、内門先生、稲田さん(鎌倉の認知症カフェ・デイサービス経営)、たちばないさぎさん(漫画家)と一緒に。右の写真では、教授と内門先生の対談や思いをみなで伺っています。東京・神奈川の認知症に携わる事業所やコメディカル、患者さんご家族など多く集まっていました。印象深かったお話をいくつか。

アルツハイマー型認知症の患者さんと普通の人が映画を見たときにどう感じるかを比較した試験があるそうです。結果、感性に差がないようです。その後時間とともに内容を忘れていくようではありますが、リアルタイムでの理解や感情は健常なのです。

アルツハイマー型認知症では、同じ質問を繰り返す症状がよくみられます。繁田教授は30回は答え続けるようです。ただ、不安から質問を繰り返すことが多いので、安心させる工夫も併せておこなうとのことでした。

初回にもの忘れ外来に訪れる場合、「認知症になったかもしれない」という不安・自信喪失が症状を悪くしていることがしばしばあります。当たり前にやっていた料理などの日課においても、「誤っているかもしれない」という負の感情がつきまとい、自信が失われているケースがあります。たとえ認知症であっても、ある日突然悪くなるはずもなく、まずはたいしたことではないことを認識してもらうことが大事で、それを理解すると改善するケースも多いです。また、数独やパズルなど新しいことに手を付ける前に、今までの生活リズムにヒントを探すことが重要です。まずは、「今まで行っていた日課をこなすように戻すこと」を目標にかかげたほうがベターです。

バイパス手術

市大関連施設より要請に応じて出張手術をしております。今回は、虚血発症の成人モヤモヤ病です。術者もしくは指導で行った各種バイパス手術は、67症例目になります。

モヤモヤ病は、原因不明の内頚動脈狭窄症で、失神・高次脳障害・一過性虚血・脳梗塞を併発する厄介な病気です。不足した血液を頭皮の血管から補う治療をします。上記写真は、右が実際に吻合完了時のものです。側頭部の頭皮の血管を脳の表面に2か所吻合します。左は術中血管撮影によるもので、吻合直後のバイパス血流の状態を確認します。

脳動脈狭窄について

パシフィコ横浜で、日本脳神経外科コングレス総会が開催されました。
脳卒中の予防として、頭蓋内動脈狭窄ICASへの対処はとても重要です。ICASの原因としては、モヤモヤ病と動脈硬化性狭窄に大きく分けられ、対処法も異なります。MRIなどによる狭窄部のプラークイメージおよび遺伝子検査による病型分類が重要とありました。
1、まず偶然に血管狭窄が見つかった場合は、モヤモヤ病の特徴があるかどうか、動脈硬化性狭窄の部位がどこかにより対応が変わります。虚血症状が疑われる場合や、分水嶺梗塞がある場合は、脳血流評価が必要です。従来はSPECTで評価をしておりましたが、最近はMRIによる脳血流画像で判断される頻度が増えています。異常がなければ経過観察、異常があればお薬での治療が必要です。
2、お薬を飲んでいても麻痺などの症状を繰り返す場合TIAや脳梗塞になった場合は、バイパス手術が必要となります。しかし、近年、冠動脈や頸動脈のステント治療がICASに対しても行われるようになってきています。今のところ高いエビデンスはなく、病変の部位などでの制限がありますが、今後主流になると考えます。切らずに済むので受ける側としては安心ですね。
3、モヤモヤ病であった場合、脳室周囲の血管異常choroidal anastomosisがあると脳室内出血のリスクが高くなるため、バイパス手術が必要となります(特に成人例)。一方、小児発症の場合は、直接+間接バイパスをしっかり広範囲におくことで将来のぶり返しが低下するようです。こちらの治療は高度な専門知識・技術・経験が必要となります。