夏安居
長くご縁をいただいている千葉の真言宗寺院 和氣徹明和尚からの依頼で、「夏安居」での講演の機会をいただきました。「脳神経外科医からみる死生観」と題して、僭越ながらお話させていただきました。
千葉県各地より、天台宗 真言宗 浄土宗 浄土真宗(本願寺派、大谷派) 日蓮宗 曹洞宗 臨済宗の住職の方々がご参加くださいました。僧衣の迫力に圧倒されながら、何よりも自分の勉強になりました。
「死にゆく人々は何を思い死んでいくのか」という問いに、私見を述べさせていただきました。仏教には、認知や意識のプロセスを八つに分けて「八識」という言葉があります。眼耳鼻舌身意(げんにびぜっしんに:六根)は大脳皮質およびそれに対応する脳神経・末梢神経です。末那識とは、間脳の情動回路に該当します(報酬系の側坐核~恐怖不安の扁桃核など)阿頼耶識とは、無意識の部分で自律神経中枢の脳幹網様体が該当するかと思います。各領域が障害されると、対応する障害が起こります。大脳皮質がダメージをうけると意識障害や高次脳機能障害が、情動回路の不具合がおこると精神疾患が、自律神経がダメージをうけると様々な不定愁訴や精神疾患、重篤では脳死・植物状態・死となります。科学的には、死にゆく人の思いは、大脳皮質が機能しているケースに限り、あるものではないかと考えます。
急に余命宣告されたがん患者さん、脳卒中などで肢体不自由や植物状態になった患者さん、とじこめ症候群となった患者さん、認知症になった患者さんそれぞれの生老病死の向き合い方について、実臨床においてアドバイスしている内容をお話しました。
また、患者さんのなかには、「諸行無常」の概念を知らず苦しんでいる方も多くいらっしゃいます。今現在抱えている悩み・苦しみは、ずっと続くものではなく、一過性であることを理解することで気持ちが楽になります(それぞれに個別な対応が必要ですが)。諸行無常は三宝印のひとつで、「空」という概念です。般若心経にも「色即是空」として登場します。このことは量子物理学でも「不確定性原理(Heisenberg 1927)としてすべてのものや現象は常にうつろい変化していることが示されています。
多くの深い質問をいただき、うまく答えられないこともございましたが、その後、皆で精進料理を堪能させていただきました。合掌九拝