神経原線維変化型老年期認知症(ちょっと難しい内容です)
ブレインバンクの河上緒先生の、神経原線維変化型老年期認知症の神経病理に関する講演と、平塚地区精神科の先生方とのディスカッションがありました。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβの蓄積(老人斑)と過剰リン酸化タウ凝集による神経脱落(神経原線維変化)が病因とされています。海馬傍回の嗅内皮質から始まり、大脳新皮質に年の単位で進行し、新皮質の機能を次々と傷害し、発症から10年程度で死亡します(図 Braak et al, 1995)。しかし、類似の病理像を呈する疾患がいくつかあります。そのうちのひとつが、高齢者タウオパチーのひとつ、神経原線維変化型老年期認知症です。これは、アルツハイマーと似たような、短期記憶障害と怒りっぽいなどの性格変化で始まります。妄想も多く認められることが特徴です。MRIでも、海馬傍回から海馬の萎縮を呈することからVSRADに異常がでるため、アルツハイマー型認知症と誤診されているケースが多いように思います。ブレインバンクの剖検例をみても、生前にアルツハイマー型認知症などほかの疾患と診断されていて、死後病理で神経原線維変化型認知症であったというケースも多いようです。
問題は、VSRADとamnestic MCIのみでアルツハイマー型認知症と診断し、安易にアリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害薬を使用することで、易怒性などの陽性症状が悪くなる可能性があることです。80歳以上の高齢者で、緩徐進行性の短期記憶障害の場合、生活機能障害がなければ(FAST3)、易怒性などの情緒障害をターゲットとした気分安定薬や抗精神病薬などで進行するかどうか経過をみていくことが重要であると思われました。基幹病院で脳血流SPECTを行い、頭頂葉や楔前部血流低下を確認することも必要と思われます。
迂回回から左右差をもって萎縮する嗜銀顆粒性認知症も、似た問題を抱えており、VSRADだけでなく、海馬冠状断で、どこがどのくらい萎縮しているのかをよく見て、アルツハイマー型認知症でない可能性があると常に疑いながら注意深く処方することが大切であると考えます。
https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25348064