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抗てんかん薬早期処方が認知症リスク低減と関連(池谷直樹先生ご寄稿)

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当院にて、てんかん外来/物忘れ外来/脳腫瘍外来 でサポートいただいている、横浜市立大学医学部 脳神経外科/YCUてんかんセンター 池谷直樹先生が、ピッツバーグ留学から帰って前りました。第2水曜日午後担当いただいております。

以下、池谷先生が、「抗てんかん薬早期処方が認知症リスク低減と関連」する論文を発表publishされまして、それに関してご寄稿依頼しました。
原著はここをクリック → 「Anti-epileptic drug use and subsequent degenerative dementia occurrence

 抗てんかん薬が早期に処方されていた患者は、そうでない患者に比べて認知症発症リスクが低いことを示唆する研究成果が当院に勤める横浜市立大学医学部脳神経外科学、YCUてんかんセンターの池谷直樹氏らにより発表されました。

 アルツハイマー病を含む神経変性疾患による認知症(変性性認知症)が、てんかん様の症状を来すことは稀ではありません。これまでの研究で、その様なてんかん様病態が、変性性認知症の病期を進行させる可能性が示唆されていました。これに対して、抗てんかん薬が、変性性認知症の進行を抑制する可能性が、基礎実験や小規模な研究で示されていましたが、これまで大規模なデータを用いた研究によって、その効果が示されたことはありませんでした。この様な背景から、池谷氏らはレセプト情報・特定健診等情報データベース(NDB)を用いた研究を行いました。

 研究では、まず2014年と5年後の2019年の外来患者データ(年齢55~84歳)から、2019年時点でてんかんと診断されているが、2014年時点ではてんかんと診断されていない(=新しくてんかんを発症した)患者さんを抽出しました。そして、2019年時点での認知症の発症(診断名の付与)リスクについて、抗てんかん薬を早期(2014年)に処方された群とそうではない群とで比較しました。その結果、認知症と診断されたのは、抗てんかん薬早期処方あり群が340人(7.6%)、なし群が577人(12.9%)であり、オッズ比0.533(95%信頼区間0.459~0.617)で、抗てんかん薬が早期に処方されていると、認知症の診断が有意に少ないことが示されました。

 池谷氏らは、NDBを用いた後向き観察研究であることを解釈上の留意点とした上で、「てんかん診断前の抗てんかん薬の使用はその後の変性性認知症の発症率の低さと関連していた。このデータはてんかんの早期症状(脳波でてんかんの波形が見つかる、など)を基に、認知症の発症を抑える目的で、抗てんかん薬を早期処方することを正当化する根拠となり得る」として、今後の前向き研究の妥当性を示す結果であると結論付けました。

 本研究は国内のレセプトデータを用いて行ったビッグデータ解析の結果であり、Alzheimer's & Dementia: Translational Research & Clinical Interventionsに2024年9月10日付けで掲載されています。なお、本研究結果は匿名レセプト情報等を基に、著者らが独自に解析・作成した結果であり、厚生労働省が作成・公表している統計等とは異なります。