認知症診療を取り巻く現状
横浜市民病院神経内科部長 山口滋紀先生の運営される、第6回神経疾患連携セミナーがありました。今回から保土ヶ谷区医師会が後援していただくこととなり、保土ヶ谷区内の開業の先生方も多く参会されておりました。
神経疾患の大先輩、山口先生の講演の座長のお役をさせていただきました。認知症患者さんの入院時にしばしばみられる、不眠とせん妄、周辺症状(BPSD:幻覚・妄想・介護抵抗・興奮・焦燥・無為)に対する、市民病院病棟での非薬物アプローチおよび、薬剤選択につきご教示いただきました。ベンゾジアゼピンは極力避け、催眠作用のある抗うつ薬や非定型抗精神病薬を組み合わせて対処することが肝要と学びました。また、せん妄に対する急性期治療も相談できるとあり、当院としては大変心強く、ますます連携させていただきたいと思います。
特別講演では、日本認知症学会理事長 秋山治彦先生(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター)から、認知症の包括的なお話をいただきました。私の専門医・指導医の最終認定印は秋山先生から頂いており、貴重な機会でした。以下のようなトピックスが印象的でした。
・ボクシングなどの反復する頭部外傷歴があるケースが、のちのち認知症を発症することは知られています。病理学的には、アルツハイマー型でも見られる神経細胞死(タウ凝集による)を認めますが、アルツハイマーとは異なる部位にみられるようです。
・認知症進展予防における介入研究では、運動習慣・食生活の見直し・脳トレ・生活習慣病管理の4つを行った群で、記憶障害以外のドメインで予防効果が得られるとありました。
・アルツハイマー患者において、脳基底部にあるWillis動脈輪の動脈硬化が強いようです。脳動脈壁がアミロイド排出経路と考えられており、動脈硬化の強い患者さんは、アミロイドの排泄がうまくいかないようです。
・現在、疾患修飾薬(根治療法)の研究が、全世界でさかんにされております。その中で、アミロイドの進展と異なり、海馬辺縁系はタウ病変が先行するようです。また、タウ凝集は細胞を超えて伝搬する可能性(プリオン仮説)があり、アミロイドのみに注目した修飾薬では、不十分かもしれません。細胞間伝搬中の凝集タウに対するモノクローナル抗体による治療への期待もあります。
・アルツハイマー撲滅のための研究の一環として、ILOOP(https://www.iroop.jp/)も紹介されました。アルツハイマーは、発症30年前くらいから脳内にアミロイドが溜まり始めると考えられており(preclinical stage)、その時点からの予防アプローチが重要であることは以前からいわれております。ILOOPは健常な時点で登録して参加することができます。家族歴がある方や、生活習慣病のリスクがある方は検討されるとよいかと考えます。