正しい認知症診療と取り組むべき課題

第21回 認知症を考える神奈川の会がありました。神奈川県内科医学会主催で、神奈川地区では最も大きな認知症の勉強会です。県内の認知症診療に携わっている脳神経外科の先生方も多くいらっしゃいました。

横浜総合病院の長田先生の講演では、昨今の大規模スタディの紹介から、予防でできること・治療でできることのわかりやすいお話があり、知識の整理ができました。

・認知症の発症・悪化を防ぐために必要なこととして、「糖尿病・高コレステロール血症・心不全・心房細動の積極的な治療」「若いうちから頭を使い長く社会で仕事を続けること」「適度な有酸素運動を習慣化すること」「禁煙」「中年期の高血圧治療の一方で、老年期の拡張期血圧(下の血圧)の過剰低下を避けること」などがありました。

慈恵医大の繁田先生のお話では、次に提唱されるべきオレンジプランの内容や、認知症に対する偏見をなくすための啓発の重要性を伺いました。

患者さんの思いが発言しやすい環境つくりや、そこを理解して尊重する社会を目指すことが大切と思います。これには、介護者や社会全体の正しい知識と、心のゆとりの実現も必要であると思いました。

頭痛対策 - 姿勢と体幹筋

頭痛の頻度や重症度が増え、生活支障が大きくなった場合、症状を悪くしている原因が日常生活の中にあることが多いです。頭痛外来でよくみられる増悪因子として、ストレス対処の破綻があります。特に、精神的負荷・長時間同一姿勢(デスクワーク・手作業・運転など)・運動不足が重なっている方に多くみられます。これらは、自律神経のバランスを崩し、頭痛の悪化を引き起こします。姿勢と体幹筋(インナーマッスル)の改善は、自律神経の乱れを抑え、頭痛解消に有効です。

今回、いつもお世話になっている森本先生(新都市脳神経外科病院院長)が監修されている「スキャプラ」を受けてきました。スキャプラでは、Passive(カイロのような術者によるケア)と、Active(ヨガのような自発的なケア)の組み合わせの指導を行っていました。何度か指導をうけることで姿勢や日々のメンテナンスのルーティン化ができれば、頭痛や自律神経の状態がよくなると思いました。私自身は頭痛もちではないのですが、頑固な肩甲骨回りの凝りと痛みでしばしば苦労しています。スキャプラとは肩甲骨の意味で、私にぴったりの内容でした。メンテナンス法を教えていただき、頭痛専門医として医学生理学的にも納得の指導でした。

当院の頭痛外来では、頚椎のチェックを必ず行いますが、ストレートネックの方がとても多いです。その原因に猫背があります。またその原因に反り腰・骨盤の前傾があります。ストレートネックは徐々に後弯し、放置すると将来頚椎症・ヘルニア発症の原因にもなります。普段、これらを有する患者さんには、姿勢の指導を行うようにしておりますが、患者さんがそれをものにするにはルーティン化(習慣化)が必要です。難治性の場合はスキャプラへ何度か通ってもらい、プロのトレーナーからの指導を受けていただきたいと思います。私自身も、身をもって学ぶため通いたいと思います。

文章で総括することは難しいので、まずは個別に診療いたします。お気軽にご相談ください。

新たな脳神経外科専門医

今年度新たに脳神経外科学会専門医に認定された、横浜市大医局の後輩のお祝い会をしました。横浜市立大学脳神経外科教室は、全国の他大学脳神経外科医局に比べ、入局者が多い傾向にあり、人気の医局と思います。今年度受験学年の人数は9人という大人数です。

脳神経外科学会専門医試験は、医師免許取得後の初期研修2年を終了して、脳神経外科学会に入局5年目に受験することができます。合格率は例年6-7割で、3人に1人は不合格という他科専門医試験と比べても合格率が低く、選考基準が厳しめです。みごと専門医をとると、学位や留学など含め、sub-specialtyを目指すことが多くなります。sub-specialtyとは、脳神経外科領域の中で、血管内手術・内視鏡手術・悪性腫瘍・高度な顕微鏡手術・てんかん外科・パーキンソン病などの外科治療である機能外科・脊椎脊髄外科・救急医学などなど多様です。放射線治療・化学療法・神経基礎研究もあります。今の脳神経外科治療は、10年後には古典芸能となってしまうほど日進月歩の領域であり、その選択は慎重かつ重要となります。アンテナを張りつつも、その時その時の自分の判断を信じて、正しいと思った方向に邁進し続けていただきたいと願います。

Gleneagles病院

オーストラリア留学時代お世話になったGP(総合診療医)の紹介で、Gleneagles病院を訪問しました。シンガポール植物園の隣に位置する三次救急病院です。シンガポールの医療は面白いシステムで、総合病院に医療テナントが付随して開業医が医療を行っています。ERに加え、様々な検査機器・手術設備も備わっています。開業医はそれらが必要な場合、病院のものを使用することができ、患者さんとしても便利に思います。MRIは、シーメンス社1.5Tが入っていました。

ベテラン神経内科医であるDr Yeoと1時間ほどシンガポールにおけるClinical Neurology脳神経診療についてお話させていただきました。Dr Yeoも、Gleneagles病院で開業しています。頭痛や脳卒中などの脳神経疾患をはじめ、GPならではの幅広い診療をされています。日本の開業医と異なり、多人種を診るため、疾患のバラエティーも多く、時にびっくりするような珍しい疾患に遭遇するとのことです。

同病院には、日本人専用のクリニックもあり、旅行者・留学者・駐在者など日本語診療を必要とする方を対象としています。シンガポールは日本人が多いため、ほかにも多くの日本語対応クリニックがあります。患者さんでシンガポールへ行かれる方もいらっしゃいますので、連携しながら安心できる医療サービスができればと思います。

病を力に

書道家の大矢豊苑先生より、「随縁」をいただきました。

「随縁」は禅語で、ひとつひとつの出会いを大切にする姿勢です。人は、とかく物や事に、善悪優劣などのレッテルを貼りがちですが、病気をはじめ様々な辛いことに対し、マイナスで取り組むのではなく、それをある意味「良いご縁」ととらえて取り組むことで、プラスな反作用をいただけるのではないかと思います。実際、脳卒中を受け入れた患者さんや、認知症の患者さんのケアに最期まで取り組んだご家族から、「辛いけれど、学ぶことも多かった」「逆境に自信がついた」などの心の変化を聞くこともあります。

「魔法の出会い」「如来の心」と、豊苑先生の解説付きです。すべての物事にはプラスに転換できるチャンスがある・いいことも悪いことも大自然の計らいであると意識することで、より生き生きと健康な生活を手に入れられるのではないかと、私も日々修行の毎日です。ありがとうございました。

ラストサムライ

講演会で久しぶりに藤津先生にお会いしました。藤津和彦先生は、国立病院機構横浜医療センター脳神経外科を統括する指導者です。私の手術の基礎は藤津流であり、不屈に正確に目的を達する心構えを植え付けていただきました。10-20年前は、血管内手術や放射線治療・化学療法・内視鏡の技術は、今のように充実していない時代で、あくまでもマイクロサージェリーで脳幹部であれ頭蓋底であれ、日をまたいで手術をしていました。高度な顕微鏡手術技術を有し、現在の脳神経外科学の基礎をつくられた1人です。

テクノロジーの進歩により、現在の脳神経外科治療方法は多岐にわたります。一方で、藤津先生のように顕微鏡手術で数多くの難症例を経験できる脳外科医は少なくなっており、まさにラストサムライではないかと思います。教えられた精神は、医療者としての根源を作るものであり、大切にしていきたいと思います。

国立病院横浜医療センターは、戸塚で降りてバスで原宿の交差点付近です。高難易度手術症例のケースは、是非ご相談したいと思います。

神奈川認知症フォーラム

神奈川認知症フォーラムで講演させていただきました。認知症診療に注力されている精神科・脳神経外科の先生方と、有意義なお話ができました。

自分の講演では、開業半年間での「物忘れ外来」の統計、認知症診療におけるMRIの有用性につきお話させていただきました。

北村ゆり先生の前頭葉症状のお話はとても勉強になりました。前頭葉は、運動や言語をつかさどる部分と、その前方にある前頭前野に分けられます。前頭前野の機能障害はアルツハイマー型認知症では多く見られ、がまんができない・うつ症状・無気力・情緒不安定・計画実行機能障害・注意障害などがあります。同じことを尋ねる・話すなどの短期記憶障害よりも、介護者負担を増やすものです。これらの症状を見極めて対応することで、患者さんも介護者も充実した「認知症生活」を送ることができると感じます。

群発頭痛とその類縁疾患

突然重度の頭痛が連日性に繰り返す場合、群発頭痛かもしれません。群発頭痛は、片方の目や側頭部に限局し、夜を中心とした決まった時間に発生します。視床下部の体内時計にその発生源があると考えられており、その時間的正確さを裏付けていると思います。一般的に、頭部自律神経症状を伴うとありますが、自覚されない場合もあり、注意が必要です。毎夜繰り返し起きるため、睡眠不足となり生活支障度は高いです。

群発頭痛は、三叉神経自律神経性頭痛TACsのくくりに入っており、持続時間によって、片側頭痛やSUNCT/SUNA(サンクトスナ)と疾患名が変わります。背景にあるメカニズムも異なると考えられており、治療薬も異なります。

また、診察時に群発頭痛と思った方でも、MRIで二次性頭痛であったケースも多々あります。怖いものでは、椎骨動脈解離・脳動脈瘤切迫破裂(特にICPC)があります。椎骨動脈解離は、片側後頭部の持続痛と思われがちですが、側頭部に放散する場合もあります。他にも、副鼻腔炎・一次性穿刺様頭痛・緑内障・内頚動脈海綿静脈洞瘻・三叉神経痛などがあり、それぞれ対応が変わります。SUNCT/SUNAは三叉神経に腫瘍があったり血管圧迫があったりとの報告もあり、精査が勧められます。一般的には三叉神経痛といえば「典型的三叉神経痛」を指します。頬や歯に発作性の痛みがあり、歯磨きなどで痛みが誘発されるトリガーがあり、痛み発作の後に痛みが誘発されないフェーズがあるなどの特徴がありますが、SUNCT/SUNAは眼周囲の三叉神経痛の可能性もあるのではと思います。

TACsはそれぞれ予防薬・頓用方法が変わります。酸素が有効な場合もあります。一旦収まっても忘れたころにまたやってきますので、お気軽にご相談ください。

効果的な認知症ケア

ノバルティスファーマ主催、脳神経外科認知症カンファランスがありました。脳神経外科で認知症診療に注力する先生方が集まり、意見交換しました。

朝田隆先生のお話で、患者さんができないことを詳細に観察し、できない要素を見つけることが効率的なケアに重要とありました。トイレができない、歯磨きができないなどの生活動作の障害をよく観察することで、できない部分を抽出することが重要です。例えば歯磨きができない時、場所がわからない・歯磨きの扱い方がわからない・口をゆすげない・歯ブラシの場所がわからない・それらの順番がわからない・・・などの要素に分け、できないところを見分けてアプローチすることで、一連の行為ができるようになります。お薬調整以上のテーラーメイドケアだと感じます。

また、会には脳腫瘍のレジェンド、現在では認知症のスペシャリストである堀智勝先生もいらっしゃいました。以前手術に専念していた時には、壇上の雲の上の存在でしたが、身近にいろいろお話ができてよかったです。

冠婚葬祭でみつかる認知症

横浜市立大学精神医学教室の認知症研究会がありました。精神科医局メインの会でしたが、医学部や部活関連の懐かしい先生方ともお会いでき、楽しかったです。

代表的な若年性認知症のひとつである、前頭側頭型認知症(病理学的には、前頭側頭葉変性症)の講演がありました。診断基準はNeary(1998)、Rascovsky(2011)があります。空間認知・記憶は保持されますが、以下のような行動異常があれば疑わしいです。反社会的行為(万引きなど)・脱抑制(我慢ができな)・被影響性の亢進(じっとできずすぐに周りに反応してしまう)・整容服装の乱れ・共感性欠如(そっけない対応)・常同行動(きっかりした時刻表的行動や無意味な反復した動作)・食行動変化(甘いものやからいものを好む)などがあります。

これらは、日常生活での誤差範囲との差がつかみにくいと思います。今回の新井先生のお話で、冠婚葬祭の場で、これらの変化がみつかることが多いとのお話があり、患者さん家族に確認しやすい問診のポイントと思いました。緊張感を保持すべき冠婚葬祭の場において、普段着で来て、場にそぐわない言動を平気でし、礼儀がないなどで、「あの方、大丈夫?」との話につながるようです。