バイパス手術(浅側頭動脈中大脳動脈吻合術)

バイパス手術のため南共済病院へ行ってきました。

南共済病院は、慢性脳虚血やもやもや病に対するバイパス手術症例が比較的多い施設です。H29年度は、このメンバーで行うことが多かったです。真ん中の三宅 茂太先生は、2年在籍しておりましたが、来月から横浜市立大学脳神経外科で大学院生になるので、今日がとりあえず最後のバイパスとなりました。迅速で正確な手術をされるので、将来が楽しみです。

この施設は、血管障害や腫瘍などの開頭術も多く、年間200-250例の手術を行っています。写真左の飯田 悠先生のマイクロ手術上達はめざましく、バイパスにおいて私が手を貸すことも少なくなっています。8月の脳神経外科専門医試験にむけ勉強中です。

横浜市立大学脳神経外科グループは、大学病院では脳腫瘍・脊髄・血管内治療・てんかん外科・機能外科に力を入れ、関連施設では脳卒中や外傷などの急性期疾患・一般的な顕微鏡手術が豊富です。当院外来にも、大学脳神経外科教員が代診で来ていただいております。これからも切磋琢磨していきたいです。

保土ヶ谷区多職種連携全体会2018/3

保土ヶ谷区の多職種連携全大会がありました。医師会・区役所・地域包括支援センターが中心となって定期的に開かれます。今回は、高齢者と自動車運転について保土ヶ谷警察署からの連絡とともに、「認知症と運転」についてお話しさせていただきました。また、初期集中支援チームについて、東川島診療所から報告があり、その後グループワークが行われました。

認知症の初期には、自動車運転に際しどのような危険な要素があるか報告しました。「注意力の低下」は多くの脳疾患でみられ、認知症でも初期から出現するため、運転に支障を来たします。「情緒不安定」もしばしば認められ、順調に運転できてもとっさの環境変化で動揺し、危険行為につながる場合があります。「目的地の失念と迷子」「空間失認や空間の歪み」も運転精度を低下させます。

認知症と診断された場合や、治療を開始された場合は、医師・ケア・家族など関わる人々から、「自主返納」へ導いてあげることが重要です。これには、当人の性格やその時点での運転の必要性や想いに配慮し、家族構成や住まいの立地なども勘案しながら、「返納後の対応策」とともに導くことが必要でしょう。MCIや初期アルツハイマー、レビー小体型認知症の場合は、納得が得られる場合もありますので、焦らずにしっかり説明を繰り返していくことが大切です。

頭痛フォーラム2018

年1回開催されるエーザイ主催の勉強会がありました。日々外来診療をしておりますと、先端研究/エビデンスのまとまった情報収集できる機会がなかなかありませんので、とても助かります。

「頭痛とてんかん」「頭痛と認知症」「二次性頭痛」を中心に、講演がありました。

「頭痛とてんかん」前兆のある片頭痛にみられる閃輝暗点などの前兆では、大脳皮質拡延性抑制CSDという異常電位がみられます。てんかんでみられる神経細胞やグリア細胞の異常興奮性irritabilityとの相違が以前より議論されております。現段階では、まだ関係性はあるかもしれないという仮説レベルとのことです。一部の抗てんかん薬は片頭痛予防に有効であり、今後の展開に注目です。

「頭痛と認知症」慢性頭痛があると認知症になりやすいかというお話です。45歳未満女性の前兆のある片頭痛患者で、ピル・喫煙があると、脳卒中の頻度が増すという報告は有名です(Lancet Neurol 2012)。2015年のHUNT studyの報告では、慢性頭痛があると血管性認知症はやや増える傾向があるようですが、アルツハイマーやレビーその他の認知症との因果関係はないようです。血管性認知症は、動脈硬化による脳出血や脳梗塞が蓄積されて認知機能が障害されるものです。これらの観点からすると、慢性頭痛(特に片頭痛)は、脳血管障害の原因になる可能性が多少なりともありそうです。前兆のある片頭痛→うつ病→脳卒中を30-50歳のうちに次々に引き起こすCADASILという遺伝性疾患がありますので、慢性頭痛と血管障害の遺伝的なつながりは何かしらあるのではないかと思いました。

「二次性頭痛」脳卒中や蓄膿症など、頭痛の原因があるものを二次性頭痛といいます。蓄膿症や解離性動脈瘤などは、MRIで比較的診断が容易です。しかし、MRIがあっても疑ってよく見ないとわからない疾患があり、注意が必要です。可逆性脳血管攣縮症候群RCVS、脳静脈洞血栓症CVTは、毎度ちょっと診断が難しい疾患として話にあがります。また、頭痛持ちでない高齢者の、閃輝暗点や頭痛の原因として、アミロイド血管症CAAも話にあがりました。

新都市脳神経外科病院との連携会

横浜新都市脳外 森本院長 千葉事務長と、恒例の情報交換会がありました。

当院は、神奈川東京の幅広い病院脳神経外科と連携をしています。その中で新都市脳神経外科は、私の中で横浜北の要という感じで、難易度の高い脳血管障害など相談させていただいております。新都市は、脳血管障害の手術と血管内治療両面において、厳しい教育指導体制を敷いており、多くの脳神経外科医を輩出するとともに、高い治療実績をあげています。改めて、森本先生に修練を求める若手脳外科医が多いことに驚きました。

森本先生とは、スキャプラという事業でも連携しています。スキャプラScapulaは、新都市脳神経外科病院の隣にあるスタジオで、頭痛などの慢性頭部不定愁訴でなかなか改善せず困っているかたに対し、カイロとヨガを合わせた施術をしていただいております。脳神経外科病院で脳神経関連疾患のリハビリ経験を積んだスタッフが対応し、医学監修をしながら患者さん個別にあわせた施術・指導をしてくれます。

頼れる兄貴という感じで、いつも元気をいただいております。

 

認知症サポート医

認知症サポート医の研修会がありました。全国から1000人近い認知症に携わるドクターが集まっておりました。

認知症サポート医の役割は、かかりつけ医やケアプラザ(地域包括支援センター)と認知症専門医や認知症疾患医療センターとの連携を調整をすることです。認知症ケアにおいて重要な目的として、認知症になっても住み慣れた地域・環境で末永く安心して暮らせるシステムを整えることがあります。図のように、多くの職種が絡んでおり、顔の見える横の連携を円滑に行うことが大切です。

起点は、認知症かもしれないと周囲が気づくことから始まります。家族が気づく、運転免許更新で気づく、友人とのゴルフやマージャンで気づくなどがあり、診療へつながることが多いです。一方、独居の場合、ごみ屋敷のようになったり、いつも散歩していたのに会わなくなったりと、民生委員やケアさんが気づき相談につながることもあります。かかりつけがいれば主治医を受診し、サポート医や専門医へつながり、診断・治療、介護ケア調整が開始されます。受診を拒否したり、何らかの理由で治療が受けられない場合は、初期集中支援チームというグループが介入することが増えており、全国区でもチームが増えています。

その他、認知症の患者さんが臆せず暮らしやすい街づくりや啓発活動、認知症カフェや家族の会などとの連携も必要です。保土ヶ谷区や横浜市での先輩サポート医のお力になれるよう、微力ながら尽力したい所存です。

物忘れ、早期発見の大切さ

神経細胞は自然経過でも加齢とともに死滅していきます。そこに特殊なスイッチがはいると、通常よりも偏って、加速して神経脱落が起こります。一度死滅した神経細胞は基本的には機能的再生はできません。認知症の早期発見の大切さはそこにあります。当院には、様々な形で「物忘れ」「認知症」に関して相談があります。

実生活で問題はないけれど、認知症の家族がいるので念のため脳ドックを受けられるケース。

患者さんの心に実存的な悩みがあり、「スケジュールを忘れてしまうようになり、心配になった」「よく物がなくなる」「仕事でミスが増えて、新しい仕事内容を覚えられない」といった主訴で、自発的に来院されるケース。

本人は病識がなく至って元気、「私はどこも悪くないけど、連れてこられた」と本人がいう一方で、家族からは「同じことを何度も繰り返し話す」「自分の家なのに帰ろうとする」「もう一人誰かが住んでいるような行動をとる」「すぐ怒る」「入浴を嫌がる」「同じ服を着続ける」などのエピソードがあります。

また、「本人がどうしても来院を拒否するのでどうしたらよいですか?」という、家族相談という形もあります。近隣には独居の方も多く、「(家族は遠方なため)近々一人暮らしが破たんしそうであり、どうしたものか」というもの。ケアプラザや、担当ケアマネージャーに勧められて相談にこられたりします。

あるいは、頭部打撲などほかの主訴で来院されて、明らかになる場合もあります。「最近、ふらついてよく転ぶ、足腰の問題とおもっていた」が、実は、起立性低血圧やパーキンソニズムがあり、水頭症があり、脳血流障害があり、海馬高度萎縮がありといったかたちで診断・治療・ケア・環境調整へとつながっていきます。

認知症の原因は様々あり、治るものもあれば、予防が効果的な場合もあります。ゆっくりゆっくりと変化するため気づきにくいかもしれませんが、とにかく早期発見することで大きく余生の質が変わることは間違いありません。

 

スマホと頭痛

頭痛の頻度・重症度を悪化させる因子のひとつに、スマホがあります。特に、頭痛持ちの子供や若い女性において注意が必要です。スマホが及ぼす悪影響は以下のようなものがあります。

ブルーライト:スマホだけではありませんが、モニター画面からはブルーライトという種類の光が出ています。眼球内の硝子体を通過して網膜へ達することで、神経系への負荷をかけるといわれています。フィルムやメガネなどブルーライトカットできるものもあるので、仕事上で使用頻度が高い方は対策が必要です。

スマホ姿勢:頚部前屈と猫背で、長時間同一姿勢で作業すると、僧帽筋を中心とした頚椎後部・上背部の支持筋肉の緊張が強くなり、慢性首肩コリの原因となります。同筋肉群は、自律神経への影響が強く、硬く凝り固まってしまうと副交感神経が弱まり、集中力や作業効率の低下、気分障害の原因となります。長期的にみると、頚椎配列がまっすぐになるストレートネックを助長し、さらに凝りやすくなる悪循環に陥ります。特に猫背にならないように注意し、断続的に休みながら作業することが必要です。

ネット社交:日中は、学校や会社で多くの人と関わります。その中で、様々な形での人間関係の負荷も生じています。社会活動が終了して帰宅すれば、他者との関わりを離れて脳を休める時間となります。しかし、SNSにより、場合によっては深夜におよび社交の場が継続されます。ポジティブな結果であればよいのですが、負担になっている場合は、夜間は通信を切ってほっとすることも必要です。特に、お子さんの頭痛においては、もれなくスマホ依存になっているように感じます。深夜に及ぶ長時間のスマホは、不眠や、朝起きれない、切れやすい、立ち眩みやめまいを伴うなどの、自律神経失調症に至っている頭痛患者さんの環境因子の一つとして注意していく必要があります。

創業1年

開院して1年が過ぎました。当院を利用していただいている方も3000人を超えました。

初診の半数が頭痛であり、市外からの利用者さんも多く、喜ばしいとともに責任を強く感じます。多くは片頭痛と慢性緊張型頭痛で、処方調整で概ね9割の方は改善が得られています。群発頭痛や解離性動脈瘤も多く、頭痛外来として重厚になってきました。子供の慢性頭痛は深刻なケースもあり、心療内科や低髄液圧治療などと連携が必要なケースもありました。

再診含めると、半数以上が認知症・軽度認知障害でした。種別としてはアルツハイマー型認知症や血管性認知症が多いです。レビー小体型認知症やパーキンソン病に認知症を伴うものが続きます。急に異常行動を発症するせん妄においては、脳卒中のように迅速に入院ができないことが多いですけれども、認知症診療に従事する病院の仲間の協力もあり、迅速な入院治療と介護者のレスパイトケアができています。また、一旦せん妄で入院すると退院できないと考えられがちですが、退院後自宅独居へ戻っている方もおり、嬉しく思います(これは入院治療の質がよいためです)。非薬物療法としての、介護保険サービス・介護者ケア教育も重要で、引き続き力を入れていきます。

脳の3科目である、脳神経外科・神経内科・精神科は、それぞれ何を診ているのかよくわからないという方がいます。これら科目は治療法の特色での分類といえます。一方、頭痛・めまい・しびれ・物忘れといった症候は、何を診療しているかがわかりやすいですが、広告・看板の規制があり、合理的な導きができないのが残念です。症候で専門性を提示する場合は、専門領域外の幅広い知識と連携が必要となります。開院して1年、ひたすらこれらの症候を見続けており、当然ですが1年前よりも知識も技術も向上していると実感します。とにかく患者さん自体が教本であり、しっかり診るとともに、謙虚に学んで参ります。

バイパス手術が有効なケース

 

モヤモヤ病もしくは、脳主幹動脈が詰まったなどの慢性虚血で、手術が有効な場合があります。

手術のメリットがデメリットを上回るかどうかは、IMPスペクトという脳血流検査で決定します。安静時とダイアモックスという薬剤を負荷した時に脳血流を測定し、写真のように罹患脳の血流が低下している場合、手術で改善が期待できます。CVRとは血管予備脳のことで、写真の症例では左大脳(写真では右半分)の予備脳が低下しており、ほおっておくと高確率で脳梗塞を発症します。

手術は、頭皮の血管を、血の巡りの悪い脳へ直接つなげます。通常、成人モヤモヤ病の場合は、浅側頭動脈という頭皮の血管を2本つなぎます。

もやもや病は、指定難病であり、給付を受けることができますが、ただモヤモヤ病が偶然みつかっただけでは認定されません。脳卒中を起こしたり手術をしたりした場合は、認定は通ります。他の難病同様、財源の問題でしょうが、判定は厳しくなりつつあります。

 

血栓回収とTIAクリニック

第一三共と日本メドトロニックの共催で、「脳卒中治療アップデート」という保土ヶ谷区西区中心とした勉強会を行いました。

国内の脳卒中外科(開頭術・カテーテル治療)第一人者である「新都市脳神経外科病院」院長 森本将史先生と、県市医師会神経科医会幹事である「たぐち脳神経クリニック」院長 田口博基先生より、ご講演いただきました。

森本先生からは、二刀流脳卒中外科医として、手術・カテ治療両面についてお話しいただきました。カテーテル治療では、ステントリトリーバーによる緊急血栓回収と、巨大動脈瘤治療に期待されるパイプライン。開頭術では、内頚動脈解離に対する高潅流バイパスや、巨大血栓化動脈瘤に対する開頭術を拝見しました。「Time is Brain」ともいわれ、脳卒中は時間との勝負です。詰まって発症してから、詰まったところが再灌流するまでの時間をいかに短縮するかがとても重要です。当院のようなMRI完備のクリニックは、早期診断を行い、即対応可能な治療家へ連絡してつなげる役割があると考えます。

そのことにつき、田口先生より、「TIAクリニック」についてお話いただきました。TIAとは一過性虚血発作のことで、脳卒中症状が固定化する前のリカバリーが期待できる病態です。実際、TIAでも、小さな脳梗塞などの損傷が残っているケースが多い様に思います。当院もそうですが、昨今、MRI・CTを完備して急性期脳卒中診断を迅速に行えるクリニックが県内、特に横浜周辺には多くあります。そのような県内脳神経クリニック先生方にも参会いただき、意見交換をしました。「TIAクリニック」は、急性期脳梗塞の有無と脳動脈の狭窄や詰まりがあるかどうかを迅速に判断し、病院治療家へ直接送って再灌流時間を短縮させることが求められています。クリニックはフットワークが軽いので、状況に応じて優先的にMRIを施行し、卒中があれば卒中外科医に直接連絡できます。さらに、搬送準備の段階で、送り先病院でも治療準備を進めていけるため、病院救急外来経由よりも、再灌流までの時間短縮が期待できるとの意見もあります。

TIAの症状は、顔手足の麻痺、言語障害、意識障害が注目されます。しかし、運動言語野以外の障害では、外からわかりにくいことがあります。脳の太い血管の慢性狭窄・閉塞により発生しやすい「分水嶺梗塞」は、症状が不明瞭な「non eloquent area」を含んでます。突然発症の、めまい・頭痛・しびれ・意識混濁・ふらつきがあり、30分、1時間と改善がなければMRI完備のTIAクリニックの受診を勧めます。