頭痛フォーラム2017

エーザイ主催、日本頭痛学会後援「頭痛フォーラム2017」がありました。トリプタンの使い分け、二次性頭痛の中でも見落とされがちのRCVS(可逆性脳血管攣縮症候群)、頭痛体操のメカニズムと実践など魅力的な内容でした。

私の頭痛専門医指導者である間中信也先生(温知会間中病院院長)に、当クリニック開設後初めてご挨拶できました。「頭痛外来どんな感じ?」と訊ねられ、子供の頭痛患者さんも多いことを伝えると、「寄り添っていってあげてね」など、フォローのポイントをいくつかいただきました。常に柔和な姿勢で、人間力も勉強になります。

また、埼玉医大の理学療法士さんから、「正しい」頭痛体操を実践しました。2分は以外に長く、しっかりやると頸肩がかなり軽くなると改めて実感しました。

車の運転と認知症

神奈川県医師会で、「認知症にかかわる診断書提出命令制度」に関する会がありました。今年の3月12日から施行される改正道路交通法についてです。

車の運転と認知症には、様々な問題があります。脳卒中や高齢発症てんかん同様、認知症も交通事故の大きな原因です。高速道路や一方通行を逆走したり、歩道の人をひいてしまったり、歩道につっこんでしまう。ニュースでもよくみかけます。2025年に向け、人口当たりのこれらの有病率も高まるため、法整備をすることは大切と思います。一方、人生終盤にかけて仕事や仲間など失うものが多い時期であり、車が好きだった方にとっては大きな喪失体験となることにも配慮する必要があります。古来より、人間は老いるとともに人格が高まっていくイメージですが、年々長寿記録が塗り替えられる昨今、医学生理学的にも精神機能や高次機能を維持する伝達物質は減少するのでそうとも言えなくなっています。突然の大切なものの喪失や、連続する喪失体験は、精神疾患の原因となったり、かっとして事件を引き起こしてしまうリスクがあります。嗜好の転換や、徐々に車の運転から離れるように、早めから時間をかけて調整する必要があります。

認知症の種類は様々あり、こういったケアの方法も疾患ごとに異なります。そういった視点からも、早期の正確な診断が必要です。

レビー小体やアルツハイマーのように視空間認知にかかわる部分が脱落する場合は、車庫入れがうまくできなくなったり、すったりするでしょう。血管性認知症などの皮質下性認知症の場合は、注意散漫になり、周囲の変化に反応する時間が遅くなることから事故につながるでしょう。ご家族が気づいてあげることも大事です。特に、短期記憶障害(同じことを繰り返し質問する)が初期に出にくいレビー小体型認知症には注意が必要と考えます。

実際認知症の治療にあたっていて、「運転をやめさせたいけど怒ってしまうので、、」というご家族や、アリセプトやメマリーなど内服している患者さんが陰で運転してしまうなど、問題はさまざまです。抗認知症薬を内服している場合は運転してはいけないのですが、管理はとても難しいのが現状です。

神経原線維変化型老年期認知症(ちょっと難しい内容です)

ブレインバンクの河上緒先生の、神経原線維変化型老年期認知症の神経病理に関する講演と、平塚地区精神科の先生方とのディスカッションがありました。アルツハイマー型認知症は、アミロイドβの蓄積(老人斑)と過剰リン酸化タウ凝集による神経脱落(神経原線維変化)が病因とされています。海馬傍回の嗅内皮質から始まり、大脳新皮質に年の単位で進行し、新皮質の機能を次々と傷害し、発症から10年程度で死亡します(図 Braak et al, 1995)。しかし、類似の病理像を呈する疾患がいくつかあります。そのうちのひとつが、高齢者タウオパチーのひとつ、神経原線維変化型老年期認知症です。これは、アルツハイマーと似たような、短期記憶障害と怒りっぽいなどの性格変化で始まります。妄想も多く認められることが特徴です。MRIでも、海馬傍回から海馬の萎縮を呈することからVSRADに異常がでるため、アルツハイマー型認知症と誤診されているケースが多いように思います。ブレインバンクの剖検例をみても、生前にアルツハイマー型認知症などほかの疾患と診断されていて、死後病理で神経原線維変化型認知症であったというケースも多いようです。

問題は、VSRADとamnestic MCIのみでアルツハイマー型認知症と診断し、安易にアリセプトなどのコリンエステラーゼ阻害薬を使用することで、易怒性などの陽性症状が悪くなる可能性があることです。80歳以上の高齢者で、緩徐進行性の短期記憶障害の場合、生活機能障害がなければ(FAST3)、易怒性などの情緒障害をターゲットとした気分安定薬や抗精神病薬などで進行するかどうか経過をみていくことが重要であると思われました。基幹病院で脳血流SPECTを行い、頭頂葉や楔前部血流低下を確認することも必要と思われます。

迂回回から左右差をもって萎縮する嗜銀顆粒性認知症も、似た問題を抱えており、VSRADだけでなく、海馬冠状断で、どこがどのくらい萎縮しているのかをよく見て、アルツハイマー型認知症でない可能性があると常に疑いながら注意深く処方することが大切であると考えます。

https://www.ncbi.nlm.nih.gov/pubmed/25348064

歩いて来るくも膜下出血

くも膜下出血というと、命に関わる救急疾患というイメージがあると思います。確かに多くは「経験したことのない頭痛」「バットで殴られたような頭痛」で、救急搬送されます。しかし中には、軽い頭痛やめまいだけの場合もあります。
「朝から頭痛はあったけど仕事休めないから」といって夕方に来院されたバスの運転手さんや、「1週間前に家の掃除をしていたら頭痛がした。痛み止めで様子を見てよくなったけど念のため。」と、1週間後に来た主婦などで、くも膜下出血の診断をした例があります。この仕事をしているとときどき遭遇します。写真はその1例で、右側頭葉先端にわずかにくも膜下出血を認めます。
一般的に、くも膜下出血になると、1/3は死亡・1/3は後遺障害・1/3は元の生活に戻る、といわれます。ただし、2回目の出血(再出血)をおこしてしまうと、7割の方が亡くなります。
家族歴がある方や、持続するいつもと違う頭痛がある場合は、動脈瘤や血管解離の有無と、くも膜下出血の痕跡のチェックをお勧めします。

東海道沿線脳外科クリニックの会

東海道沿線(正確には横須賀線・町田含む)の各駅前で開業している、横浜市立大学脳神経外科教室同門の脳神経外科クリニックの会がありました。地域における脳神経診療の均てん化・質の向上を図るべく、MRI完備の脳神経クリニック運営に関する情報交換をしました。当院は最も新しいクリニックであり、医療をとりまく諸問題につき、よい勉強になりました。JRは各駅間の距離も長く、患者さんの状況に応じて、効率的な連携ができるよう体制を整えていけたらと思います。
参加者左手前から、
小田原 小野先生
保土ヶ谷 日暮
町田 鈴木先生
藤沢 味村先生
茅ヶ崎 橋本先生
大船 高田先生
戸塚 張先生
東戸塚 中山先生

横市の神経再生研究トピックス

私の学位指導者である、横浜市立大学生命医科学研究科の竹居光太郎教授が、神経再生研究でプレスリリースされました。
現在の医療では、脳梗塞や脳挫傷などで障害された脳は再生できず、後遺症を一生抱えることになります。障害後早期からのリハビリテーションのみが、限定的な神経ネットワークの再構築を促します。心臓や肝臓など他の臓器は、細胞移植や臓器移植などで機能回復が期待できますが、脳は神経細胞が増えても、発達で見られるような複雑なネットワーク構築は現状不可能です。
竹居教授は、私が学位研究をしている折、神経再生を阻害するNogoを抑制する分子LOTUSを発見しました(Sato Y, et al. Science. 2011)。今回、Nogoの新機能が発見されました(Iketani M, et al. Sci Rep. 2016)。神経再生医療に期待されるLOTUSは、当院のロゴの蓮LOTUSと同じ、ご縁を感じます。
神経ネットワーク構築のメカニズム解明は、神経再生という難問解決の前提です。横市発の神経再生研究に、今後も期待です。

http://www.yokohama-cu.ac.jp/amedrc/news/20170110_Takei.html

夢遊病や寝言は認知症のサイン

夜中にびくっと動いたり、聞き取れない寝言を言ったりというのは、よくあります。ただ、はっきりとした会話や、歩き出したり電話をかけたりといった、具体的な寝ぼけは、病気の前兆かもしれません。病気というのは、レビー小体病と言われる疾患群です。有名なものに、パーキンソン病やレビー小体型認知症があります。本格発症の5年前後前から、このような睡眠異常行動がみられるようです。レム睡眠期は夢を見ますが、運動神経への連動がないため、眼球の動きのほかは、比較的静かに眠ります。しかし、レビー小体病では、レム睡眠の内容に基づく行動が、そのまま体に反映してしまうようです。このような、レム睡眠行動異常症がある場合は、認知症の専門医に相談し、早めの診断・対応に備えたほうが良いと思います。

薬剤の使用過多による頭痛

頭痛外来で、最近の大きな問題と思われるものに、薬剤の使用過多による頭痛(以前の薬物乱用頭痛)があります。片頭痛でも緊張型頭痛でも、薬物乱用頭痛はおこります。市販薬、SG顆粒、カロナール、ロキソニン、トリプタン製剤いずれも原因薬剤となりますが、特にトリプタン製剤は容易に薬物乱用頭痛に陥ります。薬物乱用頭痛発生の背景にあるメカニズムの理解と、適切な管理をしなければ治りません。我慢するしかないと諦めて、市販薬や、SG顆粒、ロキソニンを連日内服しないようにしましょう。
薬物乱用頭痛は、必ず治ります。SG顆粒やロキソニンは、治療薬ではありません。お困りの方は、是非ご相談ください。

NPネットワーク

NPネットワークという、湘南いなほクリニックの内門大丈先生が主導されている会で、当院の認知症診療についてお話させていただきました。NPネットとは、神経内科・脳神経外科などの神経科関連と精神科を合わせた連携会です。世話人には、レビー小体型認知症を発見した小阪名誉教授など日本の認知症診療エキスパートがいらっしゃいます。
当院の紹介とともに、薬理学での研究や、MRI完備の脳神経外科クリニックにおける認知症診療の現状について、お話しさせていただきました。当院には、正常~軽度認知障害MCI~認知症の判別やを求める患者さんが多いです。中には、脳卒中や脳腫瘍など別の要因で認知症になっている患者さんもいらっしゃいます。ガイドラインに従った正確な診断とともに、手術・精神科・神経内科の各エキスパートとの顔の見える連携がとても重要です。県内で認知症に携わる関係者が多く集まり、とても有意義な会です。

www.facebook.com/npnetwork99/

自分の脳

購入したMRIで、自分の脳を撮影しました。たくさんの方々の脳のMRIを見てきましたが、自分の脳を撮影し、読影するのは、とても緊張しました。通常の脳ドックシリーズを考えていましたが、臆してしまい、脳はT2*(T2スター)のみ、あとは、頚椎と腰椎を撮影しました。結果、動脈瘤や腫瘍などはなく、脳萎縮やかくれ脳梗塞、微小出血などもなく、安心しました。頸動脈エコーも自分で行い、頸動脈プラークや動脈硬化がないことを確認しました。学生時代ラグビー部で受傷した、眼窩吹き抜け骨折がどうなっているか心配でしたが、副鼻腔や眼窩も問題ありませんでした。これで、当面は仕事ができると思います。
何気ない行動でしたが、検査を受ける方々の気持ちを体験したような気がします。病変があっても、ショックを与えないよう配慮して、説明をしたいと思います。