創業1年

開院して1年が過ぎました。当院を利用していただいている方も3000人を超えました。

初診の半数が頭痛であり、市外からの利用者さんも多く、喜ばしいとともに責任を強く感じます。多くは片頭痛と慢性緊張型頭痛で、処方調整で概ね9割の方は改善が得られています。群発頭痛や解離性動脈瘤も多く、頭痛外来として重厚になってきました。子供の慢性頭痛は深刻なケースもあり、心療内科や低髄液圧治療などと連携が必要なケースもありました。

再診含めると、半数以上が認知症・軽度認知障害でした。種別としてはアルツハイマー型認知症や血管性認知症が多いです。レビー小体型認知症やパーキンソン病に認知症を伴うものが続きます。急に異常行動を発症するせん妄においては、脳卒中のように迅速に入院ができないことが多いですけれども、認知症診療に従事する病院の仲間の協力もあり、迅速な入院治療と介護者のレスパイトケアができています。また、一旦せん妄で入院すると退院できないと考えられがちですが、退院後自宅独居へ戻っている方もおり、嬉しく思います(これは入院治療の質がよいためです)。非薬物療法としての、介護保険サービス・介護者ケア教育も重要で、引き続き力を入れていきます。

脳の3科目である、脳神経外科・神経内科・精神科は、それぞれ何を診ているのかよくわからないという方がいます。これら科目は治療法の特色での分類といえます。一方、頭痛・めまい・しびれ・物忘れといった症候は、何を診療しているかがわかりやすいですが、広告・看板の規制があり、合理的な導きができないのが残念です。症候で専門性を提示する場合は、専門領域外の幅広い知識と連携が必要となります。開院して1年、ひたすらこれらの症候を見続けており、当然ですが1年前よりも知識も技術も向上していると実感します。とにかく患者さん自体が教本であり、しっかり診るとともに、謙虚に学んで参ります。

バイパス手術が有効なケース

 

モヤモヤ病もしくは、脳主幹動脈が詰まったなどの慢性虚血で、手術が有効な場合があります。

手術のメリットがデメリットを上回るかどうかは、IMPスペクトという脳血流検査で決定します。安静時とダイアモックスという薬剤を負荷した時に脳血流を測定し、写真のように罹患脳の血流が低下している場合、手術で改善が期待できます。CVRとは血管予備脳のことで、写真の症例では左大脳(写真では右半分)の予備脳が低下しており、ほおっておくと高確率で脳梗塞を発症します。

手術は、頭皮の血管を、血の巡りの悪い脳へ直接つなげます。通常、成人モヤモヤ病の場合は、浅側頭動脈という頭皮の血管を2本つなぎます。

もやもや病は、指定難病であり、給付を受けることができますが、ただモヤモヤ病が偶然みつかっただけでは認定されません。脳卒中を起こしたり手術をしたりした場合は、認定は通ります。他の難病同様、財源の問題でしょうが、判定は厳しくなりつつあります。

 

血栓回収とTIAクリニック

第一三共と日本メドトロニックの共催で、「脳卒中治療アップデート」という保土ヶ谷区西区中心とした勉強会を行いました。

国内の脳卒中外科(開頭術・カテーテル治療)第一人者である「新都市脳神経外科病院」院長 森本将史先生と、県市医師会神経科医会幹事である「たぐち脳神経クリニック」院長 田口博基先生より、ご講演いただきました。

森本先生からは、二刀流脳卒中外科医として、手術・カテ治療両面についてお話しいただきました。カテーテル治療では、ステントリトリーバーによる緊急血栓回収と、巨大動脈瘤治療に期待されるパイプライン。開頭術では、内頚動脈解離に対する高潅流バイパスや、巨大血栓化動脈瘤に対する開頭術を拝見しました。「Time is Brain」ともいわれ、脳卒中は時間との勝負です。詰まって発症してから、詰まったところが再灌流するまでの時間をいかに短縮するかがとても重要です。当院のようなMRI完備のクリニックは、早期診断を行い、即対応可能な治療家へ連絡してつなげる役割があると考えます。

そのことにつき、田口先生より、「TIAクリニック」についてお話いただきました。TIAとは一過性虚血発作のことで、脳卒中症状が固定化する前のリカバリーが期待できる病態です。実際、TIAでも、小さな脳梗塞などの損傷が残っているケースが多い様に思います。当院もそうですが、昨今、MRI・CTを完備して急性期脳卒中診断を迅速に行えるクリニックが県内、特に横浜周辺には多くあります。そのような県内脳神経クリニック先生方にも参会いただき、意見交換をしました。「TIAクリニック」は、急性期脳梗塞の有無と脳動脈の狭窄や詰まりがあるかどうかを迅速に判断し、病院治療家へ直接送って再灌流時間を短縮させることが求められています。クリニックはフットワークが軽いので、状況に応じて優先的にMRIを施行し、卒中があれば卒中外科医に直接連絡できます。さらに、搬送準備の段階で、送り先病院でも治療準備を進めていけるため、病院救急外来経由よりも、再灌流までの時間短縮が期待できるとの意見もあります。

TIAの症状は、顔手足の麻痺、言語障害、意識障害が注目されます。しかし、運動言語野以外の障害では、外からわかりにくいことがあります。脳の太い血管の慢性狭窄・閉塞により発生しやすい「分水嶺梗塞」は、症状が不明瞭な「non eloquent area」を含んでます。突然発症の、めまい・頭痛・しびれ・意識混濁・ふらつきがあり、30分、1時間と改善がなければMRI完備のTIAクリニックの受診を勧めます。

ほどがや健康塾 認知症と運転免許

11月5日(日)、星川地域ケアプラザで「認知症について」の講演会がありました。保土ヶ谷区での認知症への取り組みや、認知症の患者さんがどう見えているかのバーチャル体験などがありました。私は、今年3月12日に施行された改正道路交通法における臨時適性検査・診断書提出命令を中心にお話いたしました。

昨年11月の港南区事故で注目された「徘徊運転」は記憶に新しいと思います。時期をみて自発的に返納することがよいのかもしれません。しかし、運転能力が十分保持されているかもしれませんし、生きがいとなっている方もいるので、うまく調整していくことが大切です。ただし、免許センターでの臨時認知検査で第一分類(認知症の怖れ)になった場合、自主返納が賢明です。その場合、認知症の早期発見・早期介入につながるメリットもあると考えます。

運転免許にかかわる相談を常時受け付けておりますので、お気軽にご相談ください。

保土ヶ谷宿場祭2017

保土ヶ谷宿場祭2017で、ブースを出しました。YBP日本光電の協力のもと、上腕で測定可能な動脈硬化チェック、鳥取大学浦上先生開発のもの忘れチェックタッチパネルを提供しました。日本光電といえば、遊園地や駅などの公共の場に必ずあるAEDですが、そのトレーニングツールも貸し出しいただきました。

お祭りの会長さんの話では、昨年よりも人が多いようで、活気を維持している商店街だなあと感じました。このお祭りの特徴は、出店ブースが地元の企業・飲食からという点だと思います。また、値段が全般的に安く、地区の出し物も多いことが、人気の理由だと感じます。お祭りでは異色な当院ブースにも、子供から、なじみの患者さん、地域の方々が訪れてくれました。

AEDの使い方は、手順や注意事項が意外に多く、より啓発を強化する必要があると感じました。ポイントは以下の通りです。

・成人と子供で、モード設定・電極を貼る部位が違う

・人が倒れたらまず救急隊を呼び、並行してAEDをすすめる

・AEDはどこにでもありそうでも探すのが大変なので、施設の担当者にAEDを持ってくるよう伝える

・あとは、目の前で人が倒れた時、積極的に行動する勇気です

 

モヤモヤ病 バイパス手術

市大関連病院で、要請に応じてモヤモヤ病に対するバイパス手術をしています。

モヤモヤ病は、内頚動脈先端部の原因不明の進行性狭窄の病気です。脳の血の巡りが悪くなるため、脳梗塞・脳出血がおこったり、笛をふいたりラーメンなど熱いものを食べるときの過換気で、しびれ・麻痺・失神などを発症します。10歳前後と、40歳前後に発症することが多く、予防的に血行再建術を行う必要があります。脳梗塞や脳出血などの明らかな卒中がなくても、慢性虚血による知能発達障害の可能性もあり、早期発見と適切な治療が重要です。自然経過でも、頭皮や硬膜などの血管が血の巡りの悪い脳に自然に入り込んで、虚血症状を緩和することもあります。

手術は、血流の悪い脳領域に、頭皮の血管を直接つなげます。特にもやもや病は、頭皮の血管も、脳表面の血管も細くて薄く、手術操作で裂けたりと扱いには熟練が必要です。写真の症例も中学生の患者さんで、頭皮の血管(浅側頭動脈)が1mm、脳表の血管(中大脳動脈)が0.7mmと、とにかく細くて薄い状態でした。症例に応じて、さらに側頭筋や硬膜を脳表に接触させる手技を追加します。写真は直接血管吻合後の確認時のものです。左後ろの白黒モニターは、ICGという術中血管撮影で、2本のつないだ血管を介して血流が脳内に良好に流入していることを確認しています。

勤務医時代も今も、バイパス手術は生業のひとつですので、モヤモヤ病や慢性虚血でお困りの場合は、是非ご相談ください。

正しい認知症診療と取り組むべき課題

第21回 認知症を考える神奈川の会がありました。神奈川県内科医学会主催で、神奈川地区では最も大きな認知症の勉強会です。県内の認知症診療に携わっている脳神経外科の先生方も多くいらっしゃいました。

横浜総合病院の長田先生の講演では、昨今の大規模スタディの紹介から、予防でできること・治療でできることのわかりやすいお話があり、知識の整理ができました。

・認知症の発症・悪化を防ぐために必要なこととして、「糖尿病・高コレステロール血症・心不全・心房細動の積極的な治療」「若いうちから頭を使い長く社会で仕事を続けること」「適度な有酸素運動を習慣化すること」「禁煙」「中年期の高血圧治療の一方で、老年期の拡張期血圧(下の血圧)の過剰低下を避けること」などがありました。

慈恵医大の繁田先生のお話では、次に提唱されるべきオレンジプランの内容や、認知症に対する偏見をなくすための啓発の重要性を伺いました。

患者さんの思いが発言しやすい環境つくりや、そこを理解して尊重する社会を目指すことが大切と思います。これには、介護者や社会全体の正しい知識と、心のゆとりの実現も必要であると思いました。

頭痛対策 - 姿勢と体幹筋

頭痛の頻度や重症度が増え、生活支障が大きくなった場合、症状を悪くしている原因が日常生活の中にあることが多いです。頭痛外来でよくみられる増悪因子として、ストレス対処の破綻があります。特に、精神的負荷・長時間同一姿勢(デスクワーク・手作業・運転など)・運動不足が重なっている方に多くみられます。これらは、自律神経のバランスを崩し、頭痛の悪化を引き起こします。姿勢と体幹筋(インナーマッスル)の改善は、自律神経の乱れを抑え、頭痛解消に有効です。

今回、いつもお世話になっている森本先生(新都市脳神経外科病院院長)が監修されている「スキャプラ」を受けてきました。スキャプラでは、Passive(カイロのような術者によるケア)と、Active(ヨガのような自発的なケア)の組み合わせの指導を行っていました。何度か指導をうけることで姿勢や日々のメンテナンスのルーティン化ができれば、頭痛や自律神経の状態がよくなると思いました。私自身は頭痛もちではないのですが、頑固な肩甲骨回りの凝りと痛みでしばしば苦労しています。スキャプラとは肩甲骨の意味で、私にぴったりの内容でした。メンテナンス法を教えていただき、頭痛専門医として医学生理学的にも納得の指導でした。

当院の頭痛外来では、頚椎のチェックを必ず行いますが、ストレートネックの方がとても多いです。その原因に猫背があります。またその原因に反り腰・骨盤の前傾があります。ストレートネックは徐々に後弯し、放置すると将来頚椎症・ヘルニア発症の原因にもなります。普段、これらを有する患者さんには、姿勢の指導を行うようにしておりますが、患者さんがそれをものにするにはルーティン化(習慣化)が必要です。難治性の場合はスキャプラへ何度か通ってもらい、プロのトレーナーからの指導を受けていただきたいと思います。私自身も、身をもって学ぶため通いたいと思います。

文章で総括することは難しいので、まずは個別に診療いたします。お気軽にご相談ください。

新たな脳神経外科専門医

今年度新たに脳神経外科学会専門医に認定された、横浜市大医局の後輩のお祝い会をしました。横浜市立大学脳神経外科教室は、全国の他大学脳神経外科医局に比べ、入局者が多い傾向にあり、人気の医局と思います。今年度受験学年の人数は9人という大人数です。

脳神経外科学会専門医試験は、医師免許取得後の初期研修2年を終了して、脳神経外科学会に入局5年目に受験することができます。合格率は例年6-7割で、3人に1人は不合格という他科専門医試験と比べても合格率が低く、選考基準が厳しめです。みごと専門医をとると、学位や留学など含め、sub-specialtyを目指すことが多くなります。sub-specialtyとは、脳神経外科領域の中で、血管内手術・内視鏡手術・悪性腫瘍・高度な顕微鏡手術・てんかん外科・パーキンソン病などの外科治療である機能外科・脊椎脊髄外科・救急医学などなど多様です。放射線治療・化学療法・神経基礎研究もあります。今の脳神経外科治療は、10年後には古典芸能となってしまうほど日進月歩の領域であり、その選択は慎重かつ重要となります。アンテナを張りつつも、その時その時の自分の判断を信じて、正しいと思った方向に邁進し続けていただきたいと願います。

Gleneagles病院

オーストラリア留学時代お世話になったGP(総合診療医)の紹介で、Gleneagles病院を訪問しました。シンガポール植物園の隣に位置する三次救急病院です。シンガポールの医療は面白いシステムで、総合病院に医療テナントが付随して開業医が医療を行っています。ERに加え、様々な検査機器・手術設備も備わっています。開業医はそれらが必要な場合、病院のものを使用することができ、患者さんとしても便利に思います。MRIは、シーメンス社1.5Tが入っていました。

ベテラン神経内科医であるDr Yeoと1時間ほどシンガポールにおけるClinical Neurology脳神経診療についてお話させていただきました。Dr Yeoも、Gleneagles病院で開業しています。頭痛や脳卒中などの脳神経疾患をはじめ、GPならではの幅広い診療をされています。日本の開業医と異なり、多人種を診るため、疾患のバラエティーも多く、時にびっくりするような珍しい疾患に遭遇するとのことです。

同病院には、日本人専用のクリニックもあり、旅行者・留学者・駐在者など日本語診療を必要とする方を対象としています。シンガポールは日本人が多いため、ほかにも多くの日本語対応クリニックがあります。患者さんでシンガポールへ行かれる方もいらっしゃいますので、連携しながら安心できる医療サービスができればと思います。