病を力に

書道家の大矢豊苑先生より、「随縁」をいただきました。

「随縁」は禅語で、ひとつひとつの出会いを大切にする姿勢です。人は、とかく物や事に、善悪優劣などのレッテルを貼りがちですが、病気をはじめ様々な辛いことに対し、マイナスで取り組むのではなく、それをある意味「良いご縁」ととらえて取り組むことで、プラスな反作用をいただけるのではないかと思います。実際、脳卒中を受け入れた患者さんや、認知症の患者さんのケアに最期まで取り組んだご家族から、「辛いけれど、学ぶことも多かった」「逆境に自信がついた」などの心の変化を聞くこともあります。

「魔法の出会い」「如来の心」と、豊苑先生の解説付きです。すべての物事にはプラスに転換できるチャンスがある・いいことも悪いことも大自然の計らいであると意識することで、より生き生きと健康な生活を手に入れられるのではないかと、私も日々修行の毎日です。ありがとうございました。

ラストサムライ

講演会で久しぶりに藤津先生にお会いしました。藤津和彦先生は、国立病院機構横浜医療センター脳神経外科を統括する指導者です。私の手術の基礎は藤津流であり、不屈に正確に目的を達する心構えを植え付けていただきました。10-20年前は、血管内手術や放射線治療・化学療法・内視鏡の技術は、今のように充実していない時代で、あくまでもマイクロサージェリーで脳幹部であれ頭蓋底であれ、日をまたいで手術をしていました。高度な顕微鏡手術技術を有し、現在の脳神経外科学の基礎をつくられた1人です。

テクノロジーの進歩により、現在の脳神経外科治療方法は多岐にわたります。一方で、藤津先生のように顕微鏡手術で数多くの難症例を経験できる脳外科医は少なくなっており、まさにラストサムライではないかと思います。教えられた精神は、医療者としての根源を作るものであり、大切にしていきたいと思います。

国立病院横浜医療センターは、戸塚で降りてバスで原宿の交差点付近です。高難易度手術症例のケースは、是非ご相談したいと思います。

神奈川認知症フォーラム

神奈川認知症フォーラムで講演させていただきました。認知症診療に注力されている精神科・脳神経外科の先生方と、有意義なお話ができました。

自分の講演では、開業半年間での「物忘れ外来」の統計、認知症診療におけるMRIの有用性につきお話させていただきました。

北村ゆり先生の前頭葉症状のお話はとても勉強になりました。前頭葉は、運動や言語をつかさどる部分と、その前方にある前頭前野に分けられます。前頭前野の機能障害はアルツハイマー型認知症では多く見られ、がまんができない・うつ症状・無気力・情緒不安定・計画実行機能障害・注意障害などがあります。同じことを尋ねる・話すなどの短期記憶障害よりも、介護者負担を増やすものです。これらの症状を見極めて対応することで、患者さんも介護者も充実した「認知症生活」を送ることができると感じます。

群発頭痛とその類縁疾患

突然重度の頭痛が連日性に繰り返す場合、群発頭痛かもしれません。群発頭痛は、片方の目や側頭部に限局し、夜を中心とした決まった時間に発生します。視床下部の体内時計にその発生源があると考えられており、その時間的正確さを裏付けていると思います。一般的に、頭部自律神経症状を伴うとありますが、自覚されない場合もあり、注意が必要です。毎夜繰り返し起きるため、睡眠不足となり生活支障度は高いです。

群発頭痛は、三叉神経自律神経性頭痛TACsのくくりに入っており、持続時間によって、片側頭痛やSUNCT/SUNA(サンクトスナ)と疾患名が変わります。背景にあるメカニズムも異なると考えられており、治療薬も異なります。

また、診察時に群発頭痛と思った方でも、MRIで二次性頭痛であったケースも多々あります。怖いものでは、椎骨動脈解離・脳動脈瘤切迫破裂(特にICPC)があります。椎骨動脈解離は、片側後頭部の持続痛と思われがちですが、側頭部に放散する場合もあります。他にも、副鼻腔炎・一次性穿刺様頭痛・緑内障・内頚動脈海綿静脈洞瘻・三叉神経痛などがあり、それぞれ対応が変わります。SUNCT/SUNAは三叉神経に腫瘍があったり血管圧迫があったりとの報告もあり、精査が勧められます。一般的には三叉神経痛といえば「典型的三叉神経痛」を指します。頬や歯に発作性の痛みがあり、歯磨きなどで痛みが誘発されるトリガーがあり、痛み発作の後に痛みが誘発されないフェーズがあるなどの特徴がありますが、SUNCT/SUNAは眼周囲の三叉神経痛の可能性もあるのではと思います。

TACsはそれぞれ予防薬・頓用方法が変わります。酸素が有効な場合もあります。一旦収まっても忘れたころにまたやってきますので、お気軽にご相談ください。

効果的な認知症ケア

ノバルティスファーマ主催、脳神経外科認知症カンファランスがありました。脳神経外科で認知症診療に注力する先生方が集まり、意見交換しました。

朝田隆先生のお話で、患者さんができないことを詳細に観察し、できない要素を見つけることが効率的なケアに重要とありました。トイレができない、歯磨きができないなどの生活動作の障害をよく観察することで、できない部分を抽出することが重要です。例えば歯磨きができない時、場所がわからない・歯磨きの扱い方がわからない・口をゆすげない・歯ブラシの場所がわからない・それらの順番がわからない・・・などの要素に分け、できないところを見分けてアプローチすることで、一連の行為ができるようになります。お薬調整以上のテーラーメイドケアだと感じます。

また、会には脳腫瘍のレジェンド、現在では認知症のスペシャリストである堀智勝先生もいらっしゃいました。以前手術に専念していた時には、壇上の雲の上の存在でしたが、身近にいろいろお話ができてよかったです。

冠婚葬祭でみつかる認知症

横浜市立大学精神医学教室の認知症研究会がありました。精神科医局メインの会でしたが、医学部や部活関連の懐かしい先生方ともお会いでき、楽しかったです。

代表的な若年性認知症のひとつである、前頭側頭型認知症(病理学的には、前頭側頭葉変性症)の講演がありました。診断基準はNeary(1998)、Rascovsky(2011)があります。空間認知・記憶は保持されますが、以下のような行動異常があれば疑わしいです。反社会的行為(万引きなど)・脱抑制(我慢ができな)・被影響性の亢進(じっとできずすぐに周りに反応してしまう)・整容服装の乱れ・共感性欠如(そっけない対応)・常同行動(きっかりした時刻表的行動や無意味な反復した動作)・食行動変化(甘いものやからいものを好む)などがあります。

これらは、日常生活での誤差範囲との差がつかみにくいと思います。今回の新井先生のお話で、冠婚葬祭の場で、これらの変化がみつかることが多いとのお話があり、患者さん家族に確認しやすい問診のポイントと思いました。緊張感を保持すべき冠婚葬祭の場において、普段着で来て、場にそぐわない言動を平気でし、礼儀がないなどで、「あの方、大丈夫?」との話につながるようです。

健康長寿の秘訣

天気の良い連休でした。足を延ばし、懐かしいところを訪れました。

小田原勤務時代、治療家としての心構えや、脳神経組織の精巧さから感じる哲学を探求したいと思い、足蹴く通った禅刹があります。小田原郊外、久野というところにある東泉禅院です。大御所である岸老師は、幅広い活動をされており、間中信也先生と開催した地区医師会の講演もお願いしたことがあります。

岸老師とは、約8年ほど前に小田原を離れて以来、久しぶりの挨拶となりました。定例座禅会や、名句を堪能する指月会の開催など、91歳を迎える今でも積極的に行っていると知り、驚きました。老師の禅からみる現代社会の抱える様々な問題と解決法を聞いていると、仙人に見えてきます。

当クリニックにも80歳を超える元気な方々も大勢いらっしゃいまして、自分が将来こう活動的でいられるか?と疑問を感じます。岸老師は、禅芸術方面の活動も盛んになっているとのことで、ますます生き生きとしてらっしゃいました。健康長寿の秘訣は、常に前向きにできることを続けていくことだと感じます。

写真は、今回いただいた老師の著書で、座禅前に30分ほど話す法話を檀家さんがまとめられたものです。「その日の気分でパッと開いたところ一説だけ読んでね」と言われました。私は一気に読んでしまったので、クリニック待合に置きますので、お手にとってみてください。おもしろい禅の世界を垣間見れます。

前頭側頭葉変性症

日本認知症学会教育セミナーがありました。認知症は、精神科や神経内科の先生が多い印象ですが、年々脳神経外科の先生方の参会が目立つようになっています。特にMRI完備の脳神経外科クリニックの先生方が増えています。脳神経外科医は、病院勤務時代は手術に専念します。しかし、開業すると多くの患者さんが「もの忘れ」の精査で脳神経外科クリニックを受診するため、認知症診療のファーストラインに立ちます。

さて、今回のセミナーでは、以前より楽しみにしていた、池田学先生の前頭側頭葉変性症の講演がありました。写真は、自身の経験した意味性認知症(前頭側頭葉変性症のひとつ)の患者さんです。海馬を含む側頭葉の萎縮があるため、VSRADという海馬の萎縮度を測るMRIで、異常値がでます。食行動や常同行動などの特徴的な所見に気付かないと、誤ってアリセプトなどの抗認知症薬を出し、かえって興奮・介護抵抗が増えます。有病率が少ないですが、もの忘れ外来には確実に含まれていますので、常に念頭におくことが大切です。

認知症診療のいま

都内で認知症の勉強会がありました。幅広い最先端の内容でした。中でも、認知症の正確な診断に検査はどこまで必要か、というトピックスが興味深かったです。以下の内容が、現状における大方のコンセンサスだと思います。(以下、ADアルツハイマー型認知症、DLBレビー小体型認知症、CHEIアリセプトなどのお薬)

・物忘れ、幻視、迷子、失行、パーキンソニズム、うつなどいずれの初発症状であっても、MRIやCTといった形態画像診断は推奨

・TPD(PART, SNAP)の可能性が否定できない場合、SPECTや場合によっては髄液検査。11CPIB(アミロイドPET)はADの確定診断には有効であるが、保険適応外。

・ADに、DLBやPSPなどの複合病理の可能性がある場合、シンチグラフィー。特に、MIBG+DATは感度・特異度ともに90%以上。

具合が悪くなってから一度も形態画像検査をされていない場合、絶対に落としてはいけない二次性認知症の鑑別のためにMRIはとても有効です。慢性硬膜下血腫や脳腫瘍、脳梗塞があるのに、CHEIが処方され、当院に精査にこられる患者さんもいらっしゃいます。問診や神経診察だけではいろいろな意見がでる場合でも、画像一発でだれもが納得する所見が得られます。両側の明らかな海馬萎縮があれば、積極的にADを支持する所見となります。ただ、MRIと一言で言っても、どのシーケンスをどこまで細かくとるかが重要になります。前頭葉や頭頂葉(特に内側面)などのdefault mode networkの器質性病変は、明らかな神経学的局所所見がとれないことも多く、漠然とした注意力の変動や、失読のみの場合もあります。しかし、患者さんをよく知るご家族は、何かいつもと違うということに気づき、受診につなげます。長く脳神経診療や研究をしていて思うのは、「脳は、脳以外の身体の異常感知には優れるが、脳自身の異常に対する警告は下手(特にnon eloquent)」です。くも膜下出血・髄膜炎・片頭痛などは、軟膜外の三叉神経領域ですので、これらも脳以外となります。たまに、「おい脳よ、なぜここまで我慢した」といいたくなるような症例もいます。

TPDに、CHEIが有効かどうかはよくわかりませんが、今までADと診断されていた中の20%程度は、TPDなどのnon ADというデータが増えてきています。MCIとの診断で生活指導中心とし、本人・家族の相談のうえ、追加検査の検討や、CHEI処方が実情ではないでしょうか。ただ、AD以外でもCHEIの有効性は示されつつあり、DLBへの処方も保険適応となりました。正確な診断には、やはり半年スパンの時間軸が必要となるのではないかと考えます。

複合病理とは、複数の認知症がかぶっている場合です。ADとして診療している方にパーキンソニズムや幻視が出現する場合、AD+DLBとなります。AD+VaDは多く、ほかにも+PSP, CBDなどいろいろ可能性があります。その鑑別に、MIBG/DATが有効です。70才未満の若めの場合は、髄液検査・遺伝子・PETなど含め、精査が必要かもしれません。

治る認知症

もの忘れや認知症と思われている中に、治療で治るものもあります。写真にある慢性硬膜下血腫もそのうちの一つです。明らかな頭部打撲がなくても、いつのまにか脳の表面に血液が溜まり、脳を圧迫します。歩きずらい、ミスが増えた、声が小さいなどのちょっとした変化を見逃さないことが重要です。認知症のような症状や運動症状が出現している場合は、1cmほどの穴をあけて血液を除去すればほとんどの症例で改善します。

ご高齢の方や、よく転ぶ方、血液サラサラするお薬を内服している場合、発症リスクが高くなります。疑わしい場合は、ご相談ください。