見逃してはならない怖い頭痛:動静脈瘻

普通の頭痛(一次性頭痛)と見分けがつかないような軽い頭痛のなかには、見逃がすと本格的な脳卒中を発症する怖い疾患があります。

写真の3例は、当院で見つかった動静脈瘻です。動静脈瘻とは、動脈が毛細血管を経由する前で静脈に流れ込んでしまう病気です。これが形成されると、動脈の強い血流が、より低圧の静脈に流れ込むため、静脈が破綻して出血したり脳浮腫を起こしたりします。写真の3例は、それぞれ動脈から流入する静脈が異なり、症状も異なります。

写真左:内頚動脈→海綿静脈洞の短絡です。これは目の奥が痛くなり充血するので、群発頭痛や眼科疾患と間違えられる可能性があります。

写真中央:硬膜動脈→S状静脈洞の短絡です。これは、耳の後ろが痛くなるので、首・肩こりや、緊張型頭痛と間違えられる可能性があります。拍動性の耳鳴りを伴う場合は疑う必要があります。

写真右:硬膜動脈→上矢状静脈洞の短絡です。これは、後頭部正中を中心とした頭部全体的な痛みで、緊張型頭痛などと間違えられる可能性があります。せき込んだりすると痛みが状況します。

いずれも、静脈梗塞や出血を起こす可能性があり、治療が必要です。治療はカテーテルでsuper selectiveに短絡血管を詰めて治します。比較的稀な疾患でもあり、この疾患をたくさん治療している血管内治療医に治してもらう必要があります。

当院ブログで紹介しているような怖い頭痛の共通点は、ある日突然頭痛が発生して、改善しないことです。重度であれば何かおこったと考えますが、軽度でも注意が必要です。頭痛もちだとなおさら油断して見逃される可能性があります。いつもと異なる頭痛がある場合は、MRIで除外する必要があります。

正常~MCI~軽度認知症?

おかげさまで4月より法人となりました。より質の高い診療を目指して参ります。

さて、当院の物忘れ外来には、「認知症になったかもしれない」という方が多く来院されます。認知症のタイプとして最も多いアルツハイマー型認知症を例に、どのような段階があるか説明します。

①発症前段階 preclinical stage:この段階では、アミロイド蓄積はあっても、症状がありません。PET検査で、アミロイドが溜まっているか調べることができますが、自費のうえ高額です。最近、アミロイド代謝に関わる血液成分から脳のアミロイド蓄積のリスクを評価する方法が話題になっています。MCIスクリーニングという自費採血です。50歳以上で対応可能です。

②軽度認知障害MCI:「同じ質問を繰り返す」「金銭へのこだわりが強くなった」「探し物が増える」「スケジュールを頻回に確認する」などがみられるようになる一方で、買い物や家事などは一通りできる段階です。70歳前後で多くみられ、この時点では、投薬は不要ですが、悪くならないように生活の見直しや環境調整が必要です。

③軽度アルツハイマー型認知症:「冷蔵庫に賞味期限切れがふえた」「お薬飲み忘れがある」「大事なものがなくなり身近な人がもっていったと疑われる」「病識がない」などがみられ、生活にサポートが必要になります。このようなエピソードには個人差がありますので、MRIや神経心理スケールなども参照したうえで治療を開始する必要があります。

現在のところ、根本治療薬はありませんが、早期介入して対策を講じることにより、予後は大きく改善します。

脳卒中の再発予防

脳卒中学会総会2019がパシフィコ横浜で開催されました。脳卒中を発症してしまうと、多くの場合で後遺症を一生かかえていくことになります。その場合、リハビリや環境整備に加え、原因を明らかにして再発予防することが大切です。シンポジウムで、日本発の大規模研究の経過報告がありました。以下のような内容です。

・ESUS:脳梗塞の原因として、塞栓源がわからないものがあります。脳塞栓症による脳梗塞の原因としては、心房細動が有名です。しかし、ホルター心電図ではみつからずに、どこから飛んできたのか不明なものがあります。最近は、Reveal LINQという体内埋め込み式の心電図(3年胸部皮下に埋める)があり、発作性心房細動の発見率が高くなっています。再発予防として抗凝固薬を内服する場合は、心房細動がある場合にのみ使用したほうが今のところよいようです。

・CSPS.com:ラクナ梗塞やアテローム性脳梗塞になった場合、再発予防として抗血小板薬を1剤内服することは一般的です。本研究は、シロスタゾール(元祖プレタール)の2剤目としての上乗せ予防効果があるかどうかを調べています。シロスタゾールは、頭蓋内血管狭窄による梗塞予防や、脂質異常症の改善効果も報告されています。ハイリスク症例において、シロスタゾールを併用したほうが予後がよいようです。

・RESPECT study:脳梗塞・脳出血など卒中既往者において、目標とすべき血圧はどのくらいかを調べています。一般健常者では、140/90mmHg未満が望ましいとされています。但し、糖尿病・慢性腎臓病・心筋梗塞がある場合は、130/80mmHg未満を目標とします。本研究では、脳卒中既往者に関しても130/80mmHg未満を目指したほうがよいようです。

認知症診療を取り巻く現状

横浜市民病院神経内科部長 山口滋紀先生の運営される、第6回神経疾患連携セミナーがありました。今回から保土ヶ谷区医師会が後援していただくこととなり、保土ヶ谷区内の開業の先生方も多く参会されておりました。

神経疾患の大先輩、山口先生の講演の座長のお役をさせていただきました。認知症患者さんの入院時にしばしばみられる、不眠とせん妄、周辺症状(BPSD:幻覚・妄想・介護抵抗・興奮・焦燥・無為)に対する、市民病院病棟での非薬物アプローチおよび、薬剤選択につきご教示いただきました。ベンゾジアゼピンは極力避け、催眠作用のある抗うつ薬や非定型抗精神病薬を組み合わせて対処することが肝要と学びました。また、せん妄に対する急性期治療も相談できるとあり、当院としては大変心強く、ますます連携させていただきたいと思います。

特別講演では、日本認知症学会理事長 秋山治彦先生(横浜市立脳卒中・神経脊椎センター)から、認知症の包括的なお話をいただきました。私の専門医・指導医の最終認定印は秋山先生から頂いており、貴重な機会でした。以下のようなトピックスが印象的でした。

・ボクシングなどの反復する頭部外傷歴があるケースが、のちのち認知症を発症することは知られています。病理学的には、アルツハイマー型でも見られる神経細胞死(タウ凝集による)を認めますが、アルツハイマーとは異なる部位にみられるようです。

・認知症進展予防における介入研究では、運動習慣・食生活の見直し・脳トレ・生活習慣病管理の4つを行った群で、記憶障害以外のドメインで予防効果が得られるとありました。

・アルツハイマー患者において、脳基底部にあるWillis動脈輪の動脈硬化が強いようです。脳動脈壁がアミロイド排出経路と考えられており、動脈硬化の強い患者さんは、アミロイドの排泄がうまくいかないようです。

・現在、疾患修飾薬(根治療法)の研究が、全世界でさかんにされております。その中で、アミロイドの進展と異なり、海馬辺縁系はタウ病変が先行するようです。また、タウ凝集は細胞を超えて伝搬する可能性(プリオン仮説)があり、アミロイドのみに注目した修飾薬では、不十分かもしれません。細胞間伝搬中の凝集タウに対するモノクローナル抗体による治療への期待もあります。

・アルツハイマー撲滅のための研究の一環として、ILOOP(https://www.iroop.jp/)も紹介されました。アルツハイマーは、発症30年前くらいから脳内にアミロイドが溜まり始めると考えられており(preclinical stage)、その時点からの予防アプローチが重要であることは以前からいわれております。ILOOPは健常な時点で登録して参加することができます。家族歴がある方や、生活習慣病のリスクがある方は検討されるとよいかと考えます。

認知症ケアで大切な3つの視点

認知症ケアは、認知症という病気の枠を超え、本人の人生プラン・家族への影響・生活環境の調整など、幅広い介入が必要です。当院では、どの病型・どのステージでもおさえておくべき3つの視点を基軸に診療をすすめています。

1つめは、投薬に関してです。抗認知症薬は必要か。症状を緩和する補助薬は必要か。悪さをしている薬を飲んでないか。服薬ミスをなくす工夫として何ができるか。

2つめは、フォーマルケアです。介護保険サービスなど、公的支援サービスを活用します。お薬以外の治療(非薬物療法)を期待できます。目標やルーティンがなく、昼は暇で寝てばかりというケースは、活力のきっかけになることも期待できます。ケアマネ、看護師、介護士などから有益な地域資源の情報が得られます。他の利用者さんやその家族と接することで、孤立感の緩和が期待できます。また、介護者が介護から解放される時間が生まれるため、介護者の燃え尽き予防につながります(レスパイトケア)。

3つめは、インフォーマルケアです。主な介護者であるご家族や、近所のご友人など公的でない身近な人々によるサポートです。身寄りがなく独居で、近所のお友達が通院サポートしているケースもあります。その中で、介護者が正しい知識をもち、うまく接することがとても重要です。例えば、子が親を看病する場合、今までの親子関係(親に接する姿勢)を見直す必要があるかもしれません。我がぶつかりやすいため、介護者側が「一歩引いて見守る技」を習得するとうまくいくと思います。よりよいケア環境を一緒に考えていきましょう。

見逃してはならない怖い頭痛:髄膜腫

明けましておめでとうございます。おかげさまで、当院も開院後3回目の正月を迎えることができました。今年もよろしくお願いします。

さて、本来「痛み」は生物に備わっている警告システムです。しかし、特別警告すべき異常がないにもかかわらず、痛みが異常発動してしまうものがあります。頭痛領域では、片頭痛などのいわゆる一次性頭痛です。低気圧や生理など、あえて警告しなければならない事項ではありませんが、その度に頭痛に悩まされている方々がいます。生活支障が少なからずあり適切な管理は必要ですが、生死や神経学的後遺症に関わるものではありません(一部のタイプを除く)。

一方、警告を正しく発動している、いわゆる二次性頭痛もあります。これらの多くは見逃してはならない頭痛であり、中には怖いものがあります。以前当ブログで可逆性脳血管攣縮症候群と椎骨動脈解離を紹介しました。今回の写真は、当院開院後に診断した髄膜腫の症例です。いずれも40-50代女性で、頭痛は軽いが毎日続くのは初めて、といったようなエピソードで来院されています。診察時も、かぜや環境負荷などによる一時的な頭痛かなと思いつつも、「初めての連日性の頭痛なので念のためMRI検査しましょう」とした症例です。結果、「当日撮影しておいてよかった」と胸をなでおろすものです。特に、髄膜腫のようなゆっくりと増大する腫瘍は、圧迫されている脳の症状が代償されるため神経症状が出にくいのも厄介で、症状がでるころにはかなり大きくなっていることが多いです。この3症例も圧迫されている脳症状は極めて軽微でした。すぐに大学病院など専門の治療家へ紹介し対応してもらいました。髄膜腫は病理学的には良性ですが、手術で取り残しがあるとしばしば再増大します。手術難度の高い頭蓋底領域の髄膜腫などは再発を繰り返すとかなり厄介です。早期発見早期治療で予後は大きく改善します。

てんかん診療の現状

 エーザイ(株)横浜コミュニケーションオフィス社内研修会で、てんかん診療の現状につきお話させていただきました。エーザイは、フィコンパ(プランパネル)という新しい抗てんかん薬を開発しました。同薬剤はてんかん治療だけでなく神経膠腫の増大抑制や、不眠改善にも期待される薬剤です。今回お話した内容は、脳神経外科におけるてんかん外科手術(横浜市立大学脳神経外科 池谷直樹先生より情報提供)と、認知症診療における複雑部分発作の治療の重要性についてです。

添付の写真1枚目は、池谷先生よりいただいた、最近のてんかんに対する外科治療適応のスライドです。てんかん外科手術は、抗てんかん薬を数種組み合わせても抑制できないような、難治性てんかんに適応されます。てんかんの状況により、より適切な服薬管理があるか、外科治療が良いかの判断含め、ご相談させていただいております。池谷先生は、横浜市大病院において、てんかんセンターを新たに設立し、横浜市のてんかん診療の向上に尽力されています。

2枚目の写真は、複雑部分発作という比較的見逃されやすい発作の特徴をまとめたものです。海馬の神経細胞死を伴うアルツハイマー病において合併する可能性があり、この発作が放置されると予後が悪くなります。物忘れの原因になりますが、適切な治療薬により改善が得られます。アルツハイマーの概ね20人に一人の頻度で合併しています。スライドのような症状が疑わしい場合はご相談ください。

サイバーナイフとは

新緑脳神経外科・横浜サイバーナイフセンター医局忘年会に参会させていただきました。私が開業する前、2年にわたり脳疾患に対するサイバーナイフの勉強の機会をいただき、またホスピタリティを追及したクリニックのありかたを勉強させていただきました。新緑とのご縁がなければ、現在の自分、ほどがや脳神経外科はなかったといっても過言ではありません。院長の太田誠志先生、副院長の帯刀光史先生、内科部長の永川博康先生、頭蓋外全身のサイバーナイフ治療担当の小池泉先生(横浜市立大学放射線治療部講師)とサイバーナイフ治療につき談義しました。

サイバーナイフとは、右の写真のような装置(新緑脳外科より)で、患者さんは寝ているだけで数十分で体の中の腫瘍が消失していく最先端の治療です。入院は不要で通院で効果を得られます。悪性腫瘍であるほど放射線治療効果は絶大です。近隣の総合病院がん治療医からの依頼を多く受けている一方、脳神経外科で治療困難な腫瘍(聴神経腫瘍、グリオーマ、転移性脳腫瘍)などにも有効です。当院の患者さんにも適応があれば検討いただいている治療法です。太田院長はじめ先生方には引き続きご指導いただき、ともに良質な地域医療を提供していきたいと考えます。

関東ラグビー脳神経外科医会

医学部時代、ラグビー関東医歯薬リーグで共に戦った脳神経外科医で連携会をしました。12/2早明戦でメディカルドクターを務めた関東ラグビーフットボール協会 医師派遣委員会委員長、福田先生(千葉徳洲会)の声掛けで、その後秩父宮近くで集まりました。

日本医科大学、順天堂大学、慶応大学、東邦大学、横浜市立大学のほぼ同世代の脳外科医が参集しました。これからの顕微鏡手術、頭蓋底外科、神経内視鏡、てんかん外科、脳血管内治療を牽引する意欲あふれる先生方です。学会以外のプライベートの場で、大学同門を超えた顔の見える交流・連携は医療の質の向上・均てん化に欠かせません。培ったチームワークで、互いに切磋琢磨してまいります。

良質な脳卒中診療にむけ

首都圏で活躍する同世代脳血管内治療医と情報交換会をしました。血管内治療とは、カテーテルで血管の細いところにステントを入れたり、動脈瘤をコイルで閉塞したりし、開頭術にくらべて低侵襲で急速に発展している治療法です。兄貴分である森本先生(新都市脳神経外科院長)のほか、私と同年齢の3人の脳血管内治療医、早川先生(筑波大脳神経外科講師)、郭先生(慈恵医大、脳神経外科東横浜病院副院長)、清水先生(横浜市大脳外科医局長)と最先端の情報・首都圏の脳卒中ネットワークにつき情報交換しました。

良質な脳卒中診療は、予防→早期発見→急性期治療→回復期リハビリ→再発予防の循環を円滑に行うことが必要で、かかりつけ医と急性期病院とリハビリ病院の連携がカギを握ります。森本先生は新都市脳外科内での迅速なチームワーク作りに徹底しており、急患受け入れから診断・治療の時間短縮において、学会や機関誌でも繰り返し啓発されています。久しぶりに会った早川先生は、横浜市大ラグビー部同期であり、学生時代辛苦を共にしてきました。今では、日本の脳血管内治療では大きな存在となっており、昔も今も見習う点がたくさんあります。公式の会ではなかなかできない議論ができとても有意義な時間でした。