もやもや病とは
もやもや病とは、脳を栄養する血管の中で最も太い「内頸動脈」の末端部分が徐々に細くなっていき、脳の血流が悪くなる疾患です。もやもや病になると、内頸動脈が前大脳動脈と中大脳動脈に分かれる分岐点が細くなります。内頸動脈が細くなると、脳の血流が足りなくなり、脳梗塞や脳出血、頭痛などを引き起こします。原因ははっきりとはわかっていませんが、ある特定の遺伝子を持つ方に発症しやすいとされており、東洋人に多いとされています。もやもや病は基本的に左右の内頸動脈の両方に起こる病態とされており、片側に起こる場合は「片側もやもや病」と呼ぶことがあります。「もやもや病」は日本で発見された病気で、海外では”moyamoya disease”と呼ばれています。もやもや病は別名で「特発性ウィリス動脈輪閉塞症」と呼ばれています。もやもや病は主に幼児期から小児期に発症することが多い病気ですが、成人で発症することもあります。当院院長は、もやもや病のバイパス手術を比較的多く経験しております。(参考:ブログ)
もやもや病の種類
虚血型もやもや病
虚血型もやもや病とは、内頸動脈の狭窄によって脳へ供給される血液量が不足することで、起こるもやもや病で、手足の麻痺やしびれ、痙攣、意識障害、言語障害などの症状が起こります。多くの場合は、数分から数十分程度で症状が改善する「一過性脳虚血発作」ですが、稀に重篤化し、脳梗塞を発症します。虚血性もやもや病は、短時間に大きな呼吸を繰り返す「過呼吸」によって誘発されることが多く、5~10歳の小児および40歳に症状出現のピークが二峰性にあります。
出血型もやもや病
出血型もやもや病とは、血管が血流を補うために過剰に拡張してしまい、拡張に耐えられなくなった血管が破けることで脳内出血を起こすもやもや病です。もやもや血管は、脆弱なため脳室内出血をおこすことが多いです。一部に血管に動脈瘤ができ、破裂して、くも膜下出血が起こる場合もあります。出血型もやもや病の特徴は、激しい頭痛が起こることで、出血の部位によっては麻痺や意識障害などの虚血型もやもや病で見られるような症状が起こることもあります。また、出血型もやもや病は40代前後に発症することが多く、成人のもやもや病の約半数が出血型もやもや病であるとされています。
もやもや病の症状
もやもや病の症状は、幼児期から小児期と成人期で症状が異なります。また、脳梗塞や脳出血を起こすと、高次脳機能障害を起こして注意力や情報処理能力が低下する場合があります。他にも、もやもや病の症状として、頭痛やてんかんなどがあります。小児で一時的な手足の麻痺を繰り返す場合や、若年成人が突然に脳出血を起こした場合はもやもや病が疑われます。なお、家族発症の患者さんも1割程度いるとされています
子どもの場合
子どものもやもや病で最も多いのが、脳の虚血症状です。一時的に片方もしくは両方の手足に力が入りにくくなるといった症状が現れます。また、この症状を繰り返すと、「一過性脳虚血発作(TIA)」と呼ばれる状態になり、悪化すると脳梗塞を発症します。虚血症状は激しい運動や大泣き、ハーモニカやシャボン玉、熱いものをフーフーと冷ました直後などに発作が起こりやすいです。
成人の場合
成人のもやもや病は、30~40歳前後をピークとして脳出血を発症することがあります(出血型もやもや病)。また、脳室内出血を起こすことも多く、くも膜下出血を起こすこともあります。脳出血の症状は、出血を起こした箇所にもよりますが、麻痺や失語などがあり、脳室内出血を起こすと、意識障害を起こします。成人でも虚血型もやもや病を発症することもありますが、その確率は年齢とともに減少します。
もやもや病の検査
もやもや病の検査は、MRI検査を行い脳梗塞の有無を調べます。また、もやもや病によって脳循環が不十分であると、脳の溝の部分がFLAIR画像で白くなることがあります(Ivy sign)。また、同時に行うMR血管撮影(MRA検査)で、内頸動脈終末部の狭窄の有無を調べます。
もやもや病の治療
もやもや病の治療では、症状を伴っている場合は、手術を検討します。また中等度以上の血流低下が疑われる場合にも、手術が検討されます。症状がなく、中等度以上の血流低下が認められない場合は、必要に応じて血液をサラサラにする「抗血小板薬」(アスピリンやシロスタゾール)を用いた薬物療法を行います。
手術
小児の場合は、「直接バイパス手術」と「間接バイパス手術」の2種類の手術方法があります。どちらも全身麻酔を用いて行う開頭手術です。
直接バイパス手術
直接バイパス手術では、耳の横から前頭側頭部に走る「浅側頭動脈」を頭蓋内に誘導し、中大脳動脈に吻合することで血液の通り道を新しく作ります(浅側頭動脈-中大脳動脈吻合術)。
吻合の仕方はさまざまで、浅側頭動脈の前頭枝と頭頂枝の2本を用いたり、1本のみを用いることもあります。また、間接バイパス手術を併用する場合もあります。小児の血管は非常に細く、直径が0.5~1mm程度の非常に細い血管同士を8~12針程度縫って吻合する必要があるため、高度な技術が求められます。吻合にかかる時間は20~40分程度で、吻合に利用できる代替の血管はないため、一発勝負の手術になります。また、直接バイパス手術は、バイパス後の早期の合併症が問題になり、術中から手術後1週間程度は脳梗塞のリスクがあります。さらに、「過潅流症候群」と呼ばれ、血液が流れすぎるようになることで痙攣や意識障害、言語障害、半身麻痺、痺れなどの症状が起こることがあります。
間接バイパス手術
間接バイパス手術では、側頭部の筋肉組織を脳に密着させたり、頭蓋骨内の浅側頭動脈の経路を変えることで、自然に血管が生え、脳へのバイパスが作られます。血管の吻合は行わないため、技術的には直接バイパス手術よりも簡単です。バイパスする血管は10歳未満の小児の場合は数ヵ月で生成されますが、成人の場合は血管が生成されないため間接バイパス手術は無効とされています。なお、小児の直接バイパス手術と間接バイパス手術では長期的な経過はあまり違いがないとされているため、現時点では必ずしもどちらが良いという結論は出ていません。
経過観察
手術を行わない場合
手術を行わない場合は、半年ごとにMRI/MRA検査を行い、経過を観察します。経過観察中に症状が悪化したり、血管狭窄が進行してきた場合は、脳血管造影やSPECT(単一光子放射断層撮影)により脳循環状態を評価して、手術を検討します。
手術後には
手術後は、発作が消滅しないこともありますが、半年から1年で発作が落ち着いていくこともあります。術後はしばらく経過を観察します。