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三叉神経痛(顔がヒリヒリする)

三叉神経痛とは

発作的な激しい痛みが、左右どちらかの歯茎、顎、頬、額などに現れる疾患を「三叉神経痛」といいます。多くの場合、食事や洗顔、歯磨きといった行動によって痛みが誘発されます。そのため、激しい痛みで食事をすることが困難になったり、歯磨きや洗顔ができなくなったりしてしまうというケースも存在します。この疾患は、生命の危険があるものではなく、後遺障害などもないため、急いで治療をする必要はありませんが、痛みが強く、日常生活に困難が生じることもあります。こういった症状が見られる際は、当院までお気軽にお問い合わせください。


三叉神経痛の原因

神経は、脳幹と呼ばれる脳の中心部脳槽を通り、テントという構造を通って神経の線維を伸ばし、顔や頭の全体に張り巡らせます。三叉神経節を介して、3本の大きな枝となり、顔の感覚を支配しています。
三叉神経痛の主な原因は血管の圧迫です。動脈や静脈といった血管が、脳幹から出てすぐの位置で神経を圧迫すると、血管の拍動が神経に対する強い刺激となり、痛みが生じることになります。血管以外では、類上皮腫や神経鞘腫、髄膜腫といった腫瘍が神経を圧迫し、痛みを引き起こしているというケースもあります。それに加え、ごくまれに血管の奇形(脳動脈奇形)が三叉神経痛の原因である場合があります。


三叉神経痛の症状

三叉神経痛による顔の痛みには、あまり長く続かないという特徴があります。三叉神経痛の痛みは非常に強いですが、一瞬の走るような痛みで、ほとんどの場合は数秒、長くとも数十秒です。痛みが何分間も続く場合や、じりじりとした痛みは三叉神経痛ではない可能性が高いです。
三叉神経痛では、洗顔やお化粧、髭剃り、歯磨きといった日常の様々な動作によって、顔の痛みが誘発されます。食べる、噛むといった食事の動作や、冷えた水を飲むことなどによっても痛みが走るケースや、あまりの激痛に歯磨きができないといったこともあります。鼻の横など、痛みが誘発されるポイントがあり、その場所を触ると顔面に痛みが走るという場合には、三叉神経痛が疑われます。痛み発作後に一定時間痛みがおきない「不応期」をともなうこともこの病気の特徴です。
その他、痛みが季節に伴って変わるという特徴もあります。


三叉神経痛の診断

三叉神経痛の診断においてもっとも重要なことは、痛みの症状や経過について詳しく聞くということです。この疾患では、三叉神経痛の診療の経験が豊富な医師が詳細な問診を行えば、診断の見当をつけることはあまり難しくはありません。ですが、痛みが典型的でない、症状の訴えがはっきりしないなど、診断が難しいケースももちろんあります。
三叉神経痛の診断には、MRIが必要です。三叉神経の付近に圧迫している血管のループが存在している場合や、もしくは腫瘍が見られる場合、三叉神経痛であると考えられます。これらの神経や血管は非常に細かく、画像を見ただけでは血管によって神経の圧迫が起こっていると言えない場合もありますので、画像診断と問診でお聞きした症状とを組み合わせて診断を確定させる必要があります。

顔のかゆみ・水膨れは帯状疱疹かも…?

帯状疱疹後三叉神経痛は、普通の三叉神経痛(特発性三叉神経痛)とよく似ていますが、区別しなければいけない疾患です。
帯状疱疹とは、ウイルス感染によって起こる皮膚の疾患です。神経に、症状を出さずに潜んでいた、子どもの頃にかかった水ぼうそうのウイルスが、再び活動を始めることによって起こる疾患のため、症状が神経に沿って現れるという特徴があります。帯状疱疹の症状が顔に出る場合、三叉神経の分布に沿って皮疹が現れます。この際、過去にも顔に帯状疱疹の症状が出たことがある場合、三叉神経痛と同様の痛みが生じることがあります。顔の痛みのみではなく、同じタイミングで顔や頭部に赤い発疹や水ぶくれがあり、それに痛みやかゆみが続くというような場合は、三叉神経痛ではなく帯状疱疹が疑われます。
帯状疱疹後三叉神経痛以外の疾患に関しては、詳しく症状を聞くと三叉神経痛とは痛みの性質が異なります。症状を詳しくお聞きするということが、診断の際には重要です。
また、まれに起こる、三叉神経痛と区別する必要がある疾患として舌咽神経痛というものがあります。この疾患では、三叉神経痛と似た痛みが、顔面ではなく喉の奥に生じます。ものを飲み込んだ時に痛みが誘発され、耳の穴の奥や首の前面に痛みがあるように感じるケースもあります。原因は三叉神経痛と同じく、舌咽神経が血管などによって圧迫されることです。


三叉神経痛の治療

三叉神経痛の原因は、血管によって神経が物理的に圧迫されることなので、外科的手術による微小血管神経減圧術(MVT : Microvascular transposition、MVD : Microvascular decompression)という治療がもっとも効果的です。これは顔面けいれんの治療にも用いられている、神経を圧迫している血管を神経から剥離し、場所を移動することで神経の圧迫をなくすという手術方法です。
手術治療は、痛みの原因を根本的に取り除くことができるため、もっとも治療の効果を期待できます。
手術治療の他には、投薬治療もあります。この治療ではカルバマゼピン(商品名テグレトール®)といった抗痙攣薬を投与し、痛みを緩和します。この方法は痛みの原因を根本的に取り除いているわけではないので、痛みを完全には制御できなかったり、痛みをなくすことができても、再発してしまうリスクがあります。
また、カルバマゼピンはてんかんの治療に用いられる薬で、神経の伝導を抑制する働きがありますが、副作用が出ることもあります。主な副作用としては眠気やふらつき、また薬が体質と合わない場合は、肝機能障害が引き起こされるケースも存在します。また、注意が必要な重篤な副作用に、粘膜を中心とした全身に生じる発疹や水ぶくれがあります。この症状は、進行すると全身の臓器の機能が低下してしまうStevens-Johnson 症候群を引き起こす可能性があります。この副作用は、飲み始めて少し経ったあとでも起こることがあるため、定期的に血液検査や診察を行って、症状が少しでも現れた場合は即刻投薬を中止するなど、注意深く経過を観察する必要があります。